「戦闘に勝って戦争に負ける」民間人の犠牲拡大に米政府が戦争遂行への3つの疑問をイスラエルに提起

HOW MANY IS TOO MANY?

2024年1月15日(月)11時35分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

実際、今回の攻撃の強度は近年まれに見るものだ。

わずか365平方キロ(アメリカの首都ワシントンの2倍弱)の土地に約230万人が暮らすガザ地区に対し、本誌の入手した未発表の情報によれば、イスラエル軍は約2万5000の標的を攻撃した。

使用された兵器は約14万発。その60%は地上または艦船からの砲撃、残りの40%は空爆だった。

ガザ地区保健当局によると、行方不明者を含めて少なくとも2万4500の民間人が殺害された。

この数字の正確性は、国際人道機関も妥当なものと認めている。

またパレスチナ自治政府によると、高層建築のアパートを含め約1万棟のビルが全壊。被害を受けたビルはその10倍近い。

さらにイスラエル軍は、全長500キロに及ぶ地下トンネルの入り口800以上を特定し、その半分以上を破壊し、6000人以上のハマス戦闘員を殺害したと主張している。

国際法上の均衡性原則は、軍隊に対し「想定される具体的かつ直接的な軍事的利益に比べて過大な」被害を民間人・施設に及ぼすような攻撃を控えるよう求めている。

また民間人への危険を減らすために「実行可能」な予防措置を講じるよう定めている。

ただし、米国防総省の指針にあるように「民間の被害や軍事的利益、実行可能性は数値化し難い」もので、均衡性と予防措置の「適用はしばしば地上の、瞬時に変化する状況に依存する」のが常だ。

人的被害の最小化は「努力目標」

そもそも戦争が起きた場合、得られる情報は限定的で、信頼性も乏しい。今度のハマス戦争もそうだ。

どんな種類の兵器が使われたか。どんな標的が、なぜ攻撃されたか。私たちはその詳細をほとんど知り得ない。

どれだけの民間人犠牲者なら容認できるかという問いに、明確な答えはないのかもしれない。

ガザ地区での死者数については、複数の中立的な外部団体がシリアやウクライナなどの戦場と比較して評価を試みている。

死者と負傷者の比率についての試算もあり、性別や年齢の分布を他の紛争と比較した調査もある。

住宅や建物などの破壊に注目した調査もある。包囲されたガザ地区では食料や水、燃料などが不足し、そのせいで死者が増えているとの指摘もある。

そして誰もが、この戦争は前代未聞だとみている。

しかし、死者が「何人なら多すぎるのか」という問いに対する答えはない。

ちなみにイスラエルは、パレスチナ側から出てくる数字の信憑性を問い、そこにはハマスの戦闘員も含まれていると主張する。

ハマスは学校や病院の地下に潜み、民間人を盾にしていると非難してもいる。ハマスの武器による誤爆で多くの死者が出ているとの指摘もある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、米株急騰の利益限定的=モルガンS

ビジネス

アングル:米中関税合意、タイなど「チャイナプラスワ

ワールド

トルコ経済に悪影響、イスタンブール市長逮捕で=EB

ビジネス

ソニーG、金融除き今期営業益横ばい 米関税影響10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 9
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中