最新記事
最新科学

猫の腎臓病を治す「夢の薬」がもうすぐ実現...「体内にたまったごみ」を除去するAIM薬とは?

WONDER DRUG FOR CATS

2023年12月26日(火)17時20分
大橋希(本誌記者)

──創薬化については、引き受けてくれる製薬会社が見つからなかったというが......。

ペット用の薬は、人間用の薬の量を調節してパッケージを変えて発売するものがほとんど。動物薬から作ることはほとんどない。しかもAIMはたんぱく質の薬なので開発に手間とお金がかかる。日本の製薬会社で、動物用のタンパク質薬を作っているところはほとんどないのが現状だ。

でも猫にAIMを補えば腎臓病が治ることは分かっていたので、自分たちで作るしかないと考えた。

──医療や製薬とは関係のない企業の協力を受けて17年から薬の開発が始まった。その後、コロナ禍で資金提供が止まったと伝える記事が21年7月に出たところ、全国から3億円近い寄付が殺到して......。

記事の翌日、東大基金の事務局から「大変なことになっている」と電話をもらって初めて、「寄付をしよう」という情報がSNSで拡散していることを知った。

とても驚いたが、あの出来事がゲームチェンジャーになった。これだけ期待され応援されているのなら絶対に薬を作らなくてはという思いを強くしたし、(大学から)独立するきっかけにもなった。

──昨年3月末に大学を退職し、AIM医学研究所を設立して薬の開発に専念している。現在はどの段階にあるのか?

これから治験薬を作って来年には非臨床試験と臨床試験に進み、26~27年の上市(市販)を目指す。そこまでに数億円かかるので、資金調達のための会社も今年8月に設立した。

腎臓病には初期から後期までステージがいくつかある。どのステージのネコに臨床試験を行えば最短で結果が出せるかは既に絞り込んでいるので、試験自体は2年弱で終わるだろう。その後の農林水産省での承認審査は通常なら3年かかる。ただ今回は長期の基礎研究がありデータも豊富なので、交渉によって審査期間を思い切り短縮することを目指している。

1日も早くみなさんに届けることを最優先したいので、(治験の最低条件である)30匹限定で参加してもらう予定だ。

AIM薬はもともと体内にあるタンパク質を使った薬で、副作用はない。腎臓病に効くだけではなく肥満防止にもなるはずで、スマートなネコが増えるかもしれない。

──薬は欧米でも販売するのか。

日本のネコのために十分な量のAIM薬を確保するため、当面は日本でのみ使えるようにしたい。海外のネコも日本に来れば薬を使える環境を、認可されるまでに整備したい。

これは一種の医療インバウンドとして日本への貢献にもなるだろう。例えば高度先進医療や遺伝子診断などは他国でも受けられるが、ネコのAIM薬なら日本独自の治療を提供できる。

東京アメリカンクラブ
一夜限りのきらめく晩餐会──東京アメリカンクラブで過ごす、贅沢と支援の夜
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドイツ外相、中国の「攻撃的行動」を批判 訪日前に

ワールド

ウクライナ大統領、和平交渉は「現在の前線」から開始

ワールド

プーチン氏の和平案、ウクライナ東部割譲盛り込む=関

ワールド

イスラエルで全国的抗議活動、ハマスとの戦闘終結求め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中