最新記事
核兵器

「AI核戦争」の悪夢を避けるために...問題は機械による意思決定プロセスへの介入

PREVENTING AI NUCLEAR ARMAGEDDON

2023年11月16日(木)13時40分
メリッサ・パーク(ICAN事務局長)
核兵器とAIの組み合わせは核戦争のリスクをさらに高めてしまう IG_ROYAL/ISTOCK

核兵器とAIの組み合わせは核戦争のリスクをさらに高めてしまう IG_ROYAL/ISTOCK

<各国政府はAIの安全性に関する取り組みを進めているが、核兵器への応用についての深刻な懸念が浮上している>

もはやSFの話ではない。核兵器システムにAI(人工知能)を導入しようとする競争が加速するなか、核戦争勃発のリスクも日に日に高まっている。

AIの安全な開発と運用に向けて、各国政府が腰を上げた点は明るい兆しだ。しかし核戦争のリスクを本気で軽減させたいのなら、世界の指導者たちはまず、この脅威の深刻さを認識する必要がある。

G7は10月末、AIに関するルール作りの枠組み「広島AIプロセス」における開発者向けの国際指針と行動規範に合意した。バイデン米大統領はAIの安全性に関する新基準を定める大統領令に署名。英政府も11月初めに世界初の「AI安全サミット」を主催した。

とはいえ、いずれのイニシアチブもAIの核兵器への応用がもたらすリスクに十分に対応できるとは言い難い。

核の歴史はニアミスの連続だ。1983年、ソ連の軍人スタニスラフ・ペトロフが、米軍の核ミサイルがソ連に向けて発射されたとの警告を受信した。即座に上司に報告すれば核による「報復」が避けられない場面だったが、彼はシステムの誤作動だと判断。実際、そのとおりだった。

もしもこのプロセスにAIが関わっていたら、ペトロフは同じ判断を下しただろうか(そもそも、同じ判断を下す選択肢があっただろうか)。

AIの進化に伴い、機械による意思決定プロセスは不透明さを増している。いわゆるAIの「ブラックボックス問題」である。その結果、AIの働きを監視しにくくなり、ましてや不正アクセスや誤作動の有無を判断するのは困難極まりない。単に発射の最終決定を人間が担うだけでは、こうしたリスクを十分に軽減することはできない。

また、核の危機に直面した指導者の意思決定プロセスはこれまでも極めて慌ただしかった。そこにAIが関与すれば、それが発射の判断ではなく探知や標的設定に限ったものであっても、人間が発射の可否を決める時間的猶予はさらに短くなる。指導者へのプレッシャーが強まれば、判断ミスや非合理的な選択をするリスクも高まる。

人工衛星などの情報探知システムにおけるAI活用も、さらなるリスクの高まりにつながる。これまで検知されにくかった弾道ミサイル搭載潜水艦などの核を隠しにくくなるため、核保有国は紛争の初期段階、つまり敵に既知の核システムを無力化されてしまう前に、全ての核を配備することになりかねない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ウォラーFRB理事、次期議長の適性に自信 12月利

ワールド

中国主席がトランプ米大統領と電話会談=新華社

ワールド

欧州、ウクライナ支援継続 和平協議の新たな勢いを歓

ワールド

ウクライナ和平交渉団帰国へ、ゼレンスキー氏「次の対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中