最新記事
ウクライナ情勢

【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言

INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT

2023年8月22日(火)17時50分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

230801p26_BFT_02.jpg

砲撃された集合住宅の部屋(1月13日、バフムート) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

筆者がバフムートに関心を持ち始めたのは、ウクライナで出会った兵士の多くが後にその地で戦うことになったからだ。傷を負って倒れたと届く知らせのほとんどもバフムートからだった。

この街をロシア軍が突破すれば、クラマトルスクなど東部の中心都市に到達する恐れがある。一方で、バフムートには争奪の対象になる資源や産業があるわけではないともいわれる。高台に囲まれ、町の中央が川で隔てられていることで膠着状態が続き、結果的に攻防の象徴的存在になって多数の死傷者が出た。

ウクライナの人々はそこでどんな戦いを強いられたのか。現役兵士が戦闘の詳細を語ることが困難ななか、前線で戦う彼らを訪ね歩いた。

スナイパーが見たものは

昨年2月、ロンドンに本部がある国際戦略研究所が発表した「ミリタリーバランス」によると、ロシアの現役兵90万人に対し、ウクライナは20万人弱。ウクライナは18~60歳の成人男性の出国を原則禁止し、開戦翌日に予備役の招集を始めた。

その結果49万人の増員を達成したものの、戦闘を継続しながら3倍以上に膨らんだ兵員の調整や訓練に追われることになった。

兵器の差も大きかった。ウクライナ軍が所有する戦闘車両はロシア軍の2割、戦闘機は1割未満にとどまっていた。欧米メディアから「巨人と少年」と評された戦力差を埋めようとしたのが、ドローン部隊と熟練スナイパーだった。

第118旅団偵察中隊の下級航空兵ビタリー・ブロフチェンコ(39)は、高倍率のスコープを備えた銃を操るスナイパーだ。開戦後、その腕を見込まれ、ルハンスクや南東部の都市ザポリッジャなどの前線で戦ってきた。

ロシア軍は昨年8月中旬、幹線道路M03とH32が交わる地点に侵攻し、バフムート市街まで数キロに迫った。ビタリーがバフムートに派遣されたのは10月。その頃、ロシアの部隊は町の南方面に陣地を広げ、バフムートを半包囲状態にしていた。

ウクライナ軍が管理できていた唯一の道0506から市内に入ると、ビタリーは容赦ない攻撃にさらされた。「敵は至る所で激しい砲撃を仕掛けてきた。(ロシアの民間軍事会社ワグネルが)刑務所でスカウトした傭兵部隊だと侮るのは禁物だ。そこで、われわれはより軽量の銃を携行して敵の動きを見定めることに時間を費やした。スナイパーは狙撃の名手である前に、優秀な偵察兵でなくてはいけないからだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ナイキ、米関税影響緩和へ中国生産縮小を計画 株価急

ビジネス

米インフレ「かなり良好」、関税の影響見極めへ=ミネ

ワールド

アダムズNY市長、無所属で再選目指し選挙運動開始

ワールド

EU、米と「迅速でシンプルな」貿易協定締結を 期限
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中