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【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言

INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT

2023年8月22日(火)17時50分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

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スナイパーのビタリー(5月10日) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

建物の高層階や塹壕に身を隠し、500メートルほどに迫った敵の部隊を観察すること2時間。ビタリーは歩兵が移動を始めたタイミングで引き金を引く。それに合わせて、そばで待機する隊員たちが一斉にマシンガンを放つ。録画機能を備えたスコープの映像を見せてもらうと、逃げ惑った末に倒れ込む敵兵の姿があった。

弁護士を志望していたものの、機械に触れているのが性に合うと、この道を選んだビタリー。故郷に残した愛車の日本製オートバイの写真を眺めながら、バフムート近郊での待機時間を過ごしていた。

一世代前の兵器も総動員された東部戦線で、ひときわ異彩を放ったのが小型の無人機ドローンだ。カミカゼと命名されたドローンで自爆攻撃を仕掛けるロシア軍に対し、ウクライナ軍のドローンは主に偵察とミサイル投下の役目を担ってきた。

「ウクライナ軍は頭で戦うのさ」と語っていた彼らの前線本部を目にする機会があった。バフムートから20キロ。地方に行けばどこにでもありそうな農村の民家だった。

頑丈な鉄の扉を通り、建物の地下へ降りる。壁の大型モニターに映るのは、ドローンのカメラが捉えたバフムート東側のロシア軍占領地だ。サブモニターに表示されたドローン操縦者のイニシャルは18人分。その1人に向かって司令官が話す。「あの建物が怪しい。回り込んでみろ」

ドローンは斜め右から旋回し、建物の窓を捉えた状態でホバリングする。そしてロシア兵が潜んでいるかどうか、白黒がはっきりするまで監視を続ける。

別の基地にあったのは、ドローンで投下するミサイル用の羽根を作る3Dプリンターだった。当初、1台だけだったプリンターはその後4台に増えた。「クククク」と小刻みに動くプリンターの音と「ドドドド」と鳴る発電機の音が、インフラが途絶えた前線の村で交錯していた。

屋外ではロシア軍のドローンを攻撃する訓練も行われていた。銃弾が通る穴がない、角材状の銃で遠く離れたドローン目がけて電磁波を照射し、制御不能にするのだという。銃を構えていたアントン(25)は「1丁90万グリブナ(約340万円)もするんだぞ」と言って自慢していた。民生のハイテク機器と招集されたITエンジニアの兵士たちが、東部戦線で日夜奮闘していた。

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