最新記事
ウクライナ情勢

【ルポ】激戦地バフムート、「捨て石」のリアル...前線で戦う現役兵士や家族の証言

INSIDE THE BATTLE FOR BAKHMUT

2023年8月22日(火)17時50分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
バフムート方面に向かうウクライナ軍の戦車

バフムート方面に向かうウクライナ軍の戦車(3月21日、リマン付近で) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

<血で血を洗う戦いが続いた東部の要衝、ウクライナ軍の反攻が始まったが、死と隣り合わせの消耗戦の地で兵士たちはどう戦ってきたのか>

昨年4月、ウクライナ南東部での撮影を目指して再入国した筆者に、あるボランティアの女性がこう問いかけた。「ポパスナって知ってる?」

義理の弟がウクライナ兵として東部戦線で戦っていたオレガ・ケチェジ(48)は、衣類や医薬品、調理器具などの支援物資を届けるためその町に通っていた。東部ドネツク州バフムートから伸びる幹線道路H32を東に20キロ。戦況の変化を伝える地図アプリ「ディープステートマップ」を見ると、当時は東部ルハンスク州ポパスナに接する形でロシア軍占領地が迫っていたことが分かる。首都キーウの陥落に失敗したロシア軍はドンバスの完全占領をもくろみ、部隊を東部へ移動させていた。

230801p26_BFT_10.jpg

義弟が東部戦線で戦うオレガ PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

その頃、ポパスナに派遣されていた兵士がいる。ウクライナ地上軍の戦術部隊、第24独立機械化旅団に所属していたミコラ・カールポフ(37)だ。2015年に入隊し、ドンバス紛争で3年半の戦闘経験がある彼にとっても、今回は想像を超える現場だったという。

「敵陣からさまざまな種類のミサイルが飛んできて、1日で200~300人もの兵士が負傷することもあった。ルハンスク州は森や藪が多く、とても危険だ。待ち伏せされたり、罠を仕掛けられても見抜けない」

1世紀前の世界大戦を思い起こさせるような地上戦が展開したウクライナ戦争。待望の最新型戦闘機F16の欧州からの供与が決まるのは1年以上も後のことだ。機械化旅団は戦車や装甲車を多数装備し、攻撃力、起動力の高い部隊のはずだが、実際は武器が不足し、12.7ミリ口径のマシンガンだけで抵抗することも珍しくなかったという。

開戦から2カ月が過ぎた4月末、膠着状態にあった前線が西側に決壊した日があった。「朝5時、夜が明けるとロシア軍の陣地が確認できた。その後、敵の歩兵が左前方から進軍してきた。37人まで数えたところで、右からも囲まれていることに気付いた。私は大隊に状況を伝えるため部下を伝令に送ったが、その5分後に銃声が響いたんだ」

14人の小隊は急きょ撤退。その途中、ミコラは頭部に手榴弾の破片を受け負傷した。そして自陣に近づいたとき思わぬ事態に遭遇する。

「(ウクライナの)大隊の方向から発砲された。ロシア軍がいる東側から来たわれわれを敵と勘違いしたようだ」

230801p26_BFT_07B.jpg

ポパスナで負傷したミコラ PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

ウクライナ軍には戦闘経験のない新兵が多く、部隊の一部がパニックに陥ったとミコラは振り返る。開戦64日目の4月28日、ロシア軍はポパスナの町を乗り越えるように、2キロほど西に進軍した。支配地域の境目を示すラインがバフムートに近づき始めた。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、金正恩氏が決断すれば近い将来に核実験も─韓

ビジネス

川崎重工、米NYの地下鉄車両378両受注 契約額2

ビジネス

マネタリーベース、国債売却増で18年ぶり減少幅 Q

ビジネス

三井物産、連結純利益予想を上方修正 LNGや金属資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中