最新記事
観光業

「加熱式たばこ」規制が台湾観光の足かせに?

2023年8月8日(火)09時00分
高野智宏
台北市の夜景

台湾の観光業はコロナ禍で大きなダメージを受けた(写真は台北市) GORANQ/ISTOCK

<政府の新たな「たばこ規制」により、不要なトラブルに巻き込まれないよう注意が必要>

新型コロナが落ち着くとともに、旅行人気が復活している。旅行代理店大手JTBの調査では、GW中の海外旅行者数は昨年比300%増の約20万人となり、コロナ禍前の10年間平均と比べ、3割超まで回復しているという。

そのなかで今後、多くの日本人が訪れると思われるのが、数々のランキングで人気の海外旅行先に挙がる台湾だ。台湾側にも、コロナ禍で深刻な打撃を受けた観光産業の回復のため、再び日本人観光客を呼び込みたい思惑がある。

「2019年には1180万人だった海外観光客が、コロナが猛威を振るい始めた翌年には130万人まで激減し、台湾観光業界は致命的なダメージを負った。その回復には、観光客数で中国や香港に次ぐ位置につけ、しかも他国の観光客より1割ほど消費金額の高い日本人観光客の復活が、非常に重要な要素となる」と、台湾交通部観光局中彰区域観光連盟の柴俊林(チャイ・チュンリン)は語る。

だが最近、その台湾で観光業に影響を及ぼしかねない動きが起きた。3月に施行された「たばこ煙害防制法(THPCA)」の改正法だ。これにより、電子たばこの販売、使用は全面禁止に。また、加熱式たばこは審査対象となり、事業者が輸入する場合は事前に衛生福利部へ申請し、健康リスク評価審査を受けなければならなくなった。

海外からの持ち込みが発覚した場合、5万~500万台湾ドル(約23万~2300万円)、使用の場合も2000~1万台湾ドルの罰金が科される可能性がある。規制を知らずに日本人観光客が加熱式たばこを持ち込み、罰せられる可能性も大いにあり得るのだ。

「6月中旬までに69件の違反が摘発されたが、罰金刑は5万台湾ドルを科された1件。販売目的でない限り没収程度にとどまるようだ。だが、一律で加熱式たばこが認可されていない現在、台湾への持ち込みはやめたほうが無難だ」と、柴は言う。

さらなる混乱の可能性も

また今後については、別の懸念もある。仮に特定の加熱式たばこだけが審査後に認可された場合、認可を受けていないブランドの利用者だけが没収や罰金の対象になるという混乱が生じかねないのだ。

「単一ブランドのみが承認された場合、観光客の選択の自由が制限される可能性がある。日本では合法の製品が、台湾では罰則の対象となることもあり、不必要なトラブルが頻発することも考えられる」と懸念するのは、南台科技大学金融経済法研究所の郭戎晉(クオ・ロンチン)助教授だ。「同質的な周辺国の法律や政策を参考にすべき場合もある。そういう国とは往来が多く、良好な交流を保つことが有益となるからだ」

特定のブランドだけが認可されれば、喫味や機能、デザインで好みのブランドを選ぶ自由が制限される。公正な競争が阻害されれば、結果として実質的な独占市場を生み出すことにもなりかねない。さらに「消費者に政策が十分に理解されない場合、抜け道として地下経済に転ずる恐れもある。政府としては楽観できない状況だ」と、郭は言う。

台湾経済にとって重要な観光業の復活の兆しに水を差しかねない法改正。日本をはじめ海外からの旅行者がトラブルに巻き込まれるリスクを軽減する姿勢は、台湾自身のためにも重要となるはずだ。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27

ワールド

米、エヌビディア半導体「H200」の中国販売認可を

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中