最新記事
ロシア

プリゴジンが暴いたプーチンの虚像...怒りに震え動揺──ロシア国民が初めて目にした大統領の顔

No Longer Top Dog?

2023年7月3日(月)15時00分
アレクセイ・コバリョフ(ジャーナリスト)
プリゴジン

モスクワへの進軍を中止し、掌握していたロストフナドヌを後にするワグネルを率いるプリゴジン(6月24日) ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

<子飼いの部下から挑戦状を突き付けられ、右往左往した絶対独裁者の痛ましい欠点>

あんなに動揺し、怒りに震える大統領の顔をロシア国民が目にしたのは、たぶん初めてだ。

6月24日の昼前、ウラジーミル・プーチンは突然テレビに現れ、緊急演説を行った。朝方には民間軍事会社ワグネルの戦闘部隊がロシア軍に反旗を翻し、南西部の要衝ロストフナドヌに進撃していた。正規軍の兵士や治安部隊、地元警察などが抵抗した様子は見られなかった。

【動画】突然テレビに現れ緊急演説を行ったプーチン

この演説でプーチンは、ワグネルの領袖エフゲニー・プリゴジンの名こそ挙げなかったが、「背中にナイフを突き立てる」ような行為には迅速かつ断固たる懲罰を科すと断言した。プリゴジンがたたき付けた挑戦状を、自分は受けて立つ。テレビの前の全国民に、プーチンはそう約束した。

しかし、その決意は1日ともたなかった。実戦で鍛えた反乱勢力が(ほとんど邪魔されずに)首都モスクワに向けて進撃し、慌てた首都防衛隊が緊急配備に就くなか、クレムリン(ロシア大統領府)の報道官ドミトリー・ペスコフは大統領演説と正反対の声明を出した。プリゴジンを反逆罪に問うことはない、彼はベラルーシに亡命する、反乱に参加した戦闘員が退却すれば罪に問わない......。

国営メディアは突然の方針転換を、無用な流血を避けるための寛大な措置と言いくるめようとした。だがプーチンの最も忠実な支持者たちでさえ、それを額面どおりには受け取らなかった。

何か都合の悪いことが起きれば自分は身を引き、部下に責任を押し付けて国民の怒りをそらし、彼らが内輪もめで自滅するのを待つ。プーチンは今日まで、そうやって権力を維持してきた。

例えば新型コロナウイルスのパンデミックでは、感染予防と称して厳格な自主隔離を行い、危機対応の大部分を自治体の当局者に丸投げした。ウクライナ戦争でも、ハルキウやヘルソンからの撤退といった屈辱的な決定は国防省や軍部に発表させてきた。

そのせいで、国内の戦争支持派やロシア民族主義者の間では、国防相のセルゲイ・ショイグが最大の嫌われ者になった。プリゴジンもそれを承知で、プーチンの名は出さず、ひたすら軍の幹部を非難してきた。ネット上にプーチンの指導力を疑問視する書き込みが散見され、好戦派の一部からプーチンの辞任を求める声が出たのは事実だが、あくまでもごく一部だった。

一気に崩壊したイメージ

しかしプーチンが「われ関せず」を貫き、部下の誰かに責任を押し付けるやり方は限界にきていた。なにしろ大軍を率いて首都へ進撃し、目障りなロシア空軍機を撃墜した張本人は、プーチンの最も忠実な部下の1人なのだ。

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中