最新記事
ロシア

プリゴジンが暴いたプーチンの虚像...怒りに震え動揺──ロシア国民が初めて目にした大統領の顔

No Longer Top Dog?

2023年7月3日(月)15時00分
アレクセイ・コバリョフ(ジャーナリスト)

230711p38_PTN_01.jpg

ワグネルの反乱に当初は厳しい姿勢を示したプーチンだが、すぐに腰砕けになった PAVEL BEDNYAKOVーSPUTNIKーKREMLINーPOOLーAP/AFLO

プーチンはやむなく顔を出し、テレビを通じて反乱鎮圧を宣言した。だが、それもむなしかった。正規軍も治安部隊も秘密警察も動かず、プーチンの命令を実行しようとしなかったからだ。

ロシア国民の目には、プーチンが机上の軍隊を動かしているだけと映ったことだろう。しかも最悪なことに、この時点で大統領支持を表明する有力者が一人もいなかった。プーチンがいったん反乱鎮圧を宣言し、その方針があっさり撤回されるまでの間、彼らは様子見を決め込んで、決着がつくのを待っていたようだ。

無理もない。誰に責任を押し付けることもできずに自分自身が前面に出て、一人で事態に対処しようとする。そんなプーチンの姿は前代未聞だった。

そもそも子飼いのプリゴジンに「汚れ役」を引き受けさせ、その代わりにアフリカ諸国などで天然資源の利権を与え、ネット上で情報操作を行う「トロール工場」を運営させ、強力な傭兵部隊を養えるようにしたのはプーチン自身だ。ワグネルとロシア国防省の対立を悪化させ、顕在化させたのもプーチン自身。そして今回、反乱を実力で鎮圧すると宣言しながら撤回したのもプーチン自身だ。

どう見ても優柔不断。しかも、ワグネルの反乱は決して「無血」の政治的策動ではなかった。モスクワに向かう途中で、彼らはロシア空軍機7機を撃墜し、操縦士を含む乗員10人以上を死亡させたと伝えられる。

その情報がすぐにもみ消され、彼らが許されてしまったことに困惑し、怒りを感じた国民は少なくない。その中には、昨日までワグネルの勇猛さを絶賛し、国防省を批判していた人々も含まれる。

6月26日の夜遅く、プーチンは異例の短い演説を行った。ワグネルの戦闘員たちが反乱未遂の責任を問われないことを確認し、「友軍同士の流血」を回避した指揮官たちに感謝すると語った。しかし、自分たちの指導者が事態を掌握できていないのではないかという国民の不安を和らげる助けにはならなかった。

今回の反乱で、反プーチンの守旧派も活気づいた。以前はブロガーや元傭兵など、不満分子の寄り合い所帯にすぎなかったが、今は反プーチンで結束し始めている。

「大統領らしからぬ惨めなパフォーマンス」だとSNSのテレグラムに書き込んだのは、著名な軍事ブロガーで元軍人のイーゴリ・ギルキン(2014年にウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された事件への関与を疑われている人物だ)。過激な民族主義者で超好戦派のウラジスラフ・ポズニャコフも、「プーチンは現実から切り離されたファンタジーの世界に住んでいる」とこき下ろした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ルハンスク州全域を支配下に 

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中