最新記事
ジェンダー

教育は「1位→47位」、ジェンダー後退国・日本で出版された希望になるかもしれない本

2023年7月31日(月)20時15分
飯田千鶴

一方、性別役割意識についての調査で、男女ともに「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」という回答が1位で、「女性は結婚によって、経済的に安定を得る方が良い」は女性が5位、男性が9位だった(2022年度性別による無意識の思い込み〔アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究)。経済分野における男女格差解消には、まず無意識の思い込み解消から始めるほかないと考えさせられる。

そして、識字率や高等教育就学率の男女比を反映する教育分野は47位(99.7%)で、2022年には男女平等だった1位から後退している。

 
 
 
 
 

東京都立高校の入学試験では男女別定員があるため、女子の合格ラインが男子より高くなり、男女別定員がなければ合格していたはずの女子が何百人といた。男女別定員が撤廃されるのは2024年度入試からだ。

全国の807大学の在学者のうち、女子は44.5%(2022年度学校基本調査)。内訳は学部45.6%、大学院32.7%で、男子の大学院進学率は女子の2倍以上というデータもあった。女子の理工系分野進学率となると、さらに下がる傾向にある。そのため、政府は「リケジョ」育成の推進を始めた。

女子が大学院に占める割合が3割程度にとどまり、分野によってはそれすら下回る状況を考えると、99.7%という日本の教育分野のジェンダー・ギャップ指数をもって男女平等を達成していると言えるのだろうか。そうだとは必ずしも言えない状況が浮かび上がる。

『第二の性』と『82年生まれ、キム・ジヨン』の文庫発売の意味

このような状況にある日本で2023年春、ジェンダーを巡る問題について考えるための本が文庫で出版されたことは希望かもしれない。

シモーヌ・ド・ボーヴォワールによるフェミニズムの古典で、1949年に刊行されると世界的ブームを巻き起こした『第二の性』(河出文庫、リンク先は『決定版 第二の性 I 事実と神話』)。そして、韓国で2016年に刊行されると136万部を突破し、32の国・地域で翻訳され、日本で29万部のベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳、ちくま文庫)である。2冊とも女性が人生で直面するあらゆる差別を描き出している点が共通している。

多くの韓国文学を日本に紹介する第一人者で、『82年生まれ、キム・ジヨン』を翻訳した斎藤真理子さんは文庫版の訳者あとがきに、作者の主張のポイントとして「経済的に恵まれていても良い家族がいても、社会のシステムに問題がある限り、この問題は解決できないという点にあります」と書いている。主人公の恋愛の描写がないのも、愛でどうにかなる問題ではないことを示していると触れていた。

生まれた時代やその時代の価値観に縛られず、影響を受けずに生きている人はいない。社会構造そのものを直視しなければ、どうにもならないとじりじり迫る。

『82年生まれ、キム・ジヨン』が国や年代を超えて共感される理由がまさにここにある。そして、単に共感で終わるのではなく、社会システムの欠陥や問題の本質を見極める目を養えと問うのだ。

衝撃か、納得か。あなたは日本のジェンダー・ギャップ指数をどう解釈するだろうか。

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、米関税にらみ上値重い 中国

ワールド

ウクライナ第2の都市に無人機攻撃、子ども3人含む2

ビジネス

国内ファンドのJAC、タダノ株を11.02%取得

ビジネス

日産、転換社債と普通社債で7500億円調達 リファ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中