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「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは

RISKY BUSINESS

2023年5月11日(木)16時30分
メーガン・ガン(本誌記者)

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今年2月、ラスベガスのシーザーズ・パレスでスーパーボウルの実況を見ながら賭けに興じる客たち GEORGE ROSE/GETTY IMAGES

最も気がかりなのは、「昨年の電話相談記録と比べ、今年の記録では不安障害、鬱病、神経障害を抱えている相談者がそれぞれ62%、63%、20%増えた」ことだと、同評議会は報告している。「特に注目すべきは、前年度に比べ50%も多い、ほぼ4人に1人(24%)の相談者が自殺念慮があるか自殺を図ったことがあると打ち明けたことだ」という。

こうしたなかでもオレゴン州は事情が異なる。19年末にスポーツ賭博が解禁されてからも電話相談の件数は増えていない。同州には有力なプロスポーツチームはなく、大手の賭博業者は州営ロトだけで、ここが州内の大半のスポーツ賭博を取り仕切り、モバイル機器によるスポーツ賭博を扱う州内唯一の合法業者、ドラフトキングズを傘下に置いている。

おかげでスポーツ賭博の広告がテレビやネットにあふれる事態を回避できていると、同州保健当局の広報担当ティム・ハイダーは話す。「他の州では複数の業者が乱立し、規制環境も整備途上なのでスポーツ賭博の広告が止めどなく流されている」

ギャンブル依存症の専門家に言わせると、アメリカにおけるスポーツ賭博は時限爆弾のようなものだ。「今の解禁ラッシュが何をもたらすか。はっきり分かるのは5、6年後」だと、ラトガーズ大のナウワーは話す。

一つにはギャンブル依存症は薬物やアルコールのそれより静かに進行するからだ。「発覚しにくいのが特徴だ」と、ナウワーは説明する。「家族と一緒に食卓を囲んでいるときでもスマホで賭けられるが、ギャンブルをしているとは誰も気付かない。家族全員に破滅が及ぶまでは」

いち早くギャンブルが解禁された諸外国の経験がアメリカの行く末を暗示している。合法賭博の長い伝統があるイギリスでは05年にモバイル機器を使った賭博が解禁された。オンラインスポーツ賭博サイトのパディー・パワーの共同創設者スチュワート・ケニーは依存症と自殺の増加に加担したことを悔い、オンライン賭博を広めたことを恥じていると述べて、16年に同社の役職を退いた。

英政府の報告書によると、ギャンブル絡みの自殺者は推計で年間400人超に上る。19年には政府の肝煎りで未成年者のためのギャンブル依存症クリニックが開設された。イギリスには問題のあるギャンブラーが推定39万5000人いるが、うち5万5000人は11~16歳とみられている。ケニーはブルームバーグのポッドキャストで「アメリカではさらに大変なことになるだろう」と警告した。「転落者が出ることを容認するのがアメリカ社会の特徴だから」

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