最新記事

教育

日本の学校では、問題解決能力も批判的思考も養われていない

2023年3月1日(水)11時50分
舞田敏彦(教育社会学者)
授業風景

まずは教員が授業に注力できる環境を整えることが先決だ mapo/iStock.

<授業では、生徒に習得させるべき学習内容とカリキュラム進行の方が強く意識されている>

学校の授業というと、生徒は一様に前を向き、教員が板書する事項をノートに写し取っている光景が思い浮かぶ。いわゆる講義法で、教員が子どもに知識を(上から)教え込む「注入主義」のやり方だ。

これと対峙する「開発主義」は、子どもの諸能力の開発を目指すもので、討議や小集団(グループ)学習などが主な方法となる。現行の学習指導要領では、先行き不透明な時代を生き抜けるようにすべく、自ら考える力や問題解決する力の育成を重視している。注入主義から開発主義に重点が移ってきているのは、どの国でも同じだ。読・書・算の能力だけを持った工場労働者を大量育成すればいい、という時代ではない。

この2つがどれほどの比重で混ざり合っているかは、国によって異なる。日本の中学校教員に、生徒独自の方法で問題を解かせる頻度を問うと、「しばしば」ないしは「いつも」という回答の割合は25%で、OECD加盟国の平均値(45%)よりだいぶ低い(OECD「TALIS 2018」)。他の項目も併せて見ると、日本の特徴が浮かび上がる。<表1>は、16の項目の肯定率の比較だ。日本とOECD平均の差が大きい順に並べている。

data230301-chart01.png

日本で高いのは「目標を設定する」「学んでほしいことを説明する」といったもので、「答えのない課題を出す」「独自の方法で問題を解かせる」教員は少ない。表の下をみるとICT(情報通信技術)教育に加え、全員理解の完全習得学習や批判的思考を促す取組において、諸外国に水を開けられているのが分かる。

総じて言うと、日本では習得させるべき内容、習得の進度(学年進行)までもが前もって強固にイメージされ、それから外れるような実践は歓迎されない。内容の習得が不十分でも落第はもってのほかで、教科書と違うやり方で問題を解いたら減点される。だが未知の状況を生き抜く力を養うべく、上から教え込むだけでなく、自分の頭で考えさせることも必要になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中