最新記事

ウクライナ

【現地ルポ】「生き残りをかけた冬」...砲撃と酷寒を耐え忍ぶウクライナ最前線の生活

SURVIVING THE WINTER

2022年12月15日(木)18時30分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

支援活動を守る警察官たち

221220ukraine04.jpg

検問所で警備にあたるアレクサンドル署長と機動隊員のアンドリュー、ルスラン(左から順に、11月18日、ザポリッジャ州グレイポーレ) TAKASHI OZAKI

ライフラインが途絶えた人々の命綱である人道支援の車両が狙われたことを受け、グレイポーレの警察当局は対策に乗り出した。40人の部下を率い、陣頭指揮を執るのは署長のアレキサンドル・パブロビッチ(38)。町の実態を伝えるため、彼は警察の部隊が拠点にしている建物に筆者を招いてくれた。建物の位置や外観を秘密にしておくことが条件だ。

警察署の朝は7時45分の朝礼から始まる。自宅から通う署員はわずかで、多くは本部で寝泊まりしている。中庭に面した署長室を訪ねると、アレキサンドルの机のそばに大きな地図が貼ってあった。タイトルは「2022年6月6日から16日の砲撃」。砲撃を受けた区画29カ所が赤色でマークされ、それぞれ日付が書いてある。役場、学校、商店、集合住宅......。町の中心部にあった建物の半分ほどが、その11日間に破壊されたことが分かる。ロシア軍に徹底抗戦を挑み、陸の孤島となったマリウポリが陥落してから3週間後。ウクライナ南東部を完全に占領できたことで、ロシア軍は要衝の町にやりたい放題の攻撃を仕掛けたのだ。

「今年ロシア軍による侵攻が始まってから、この町で26人の民間人が殺されました。負傷者は46人です。子供にけがのなかったのがせめてもの救いです」

地図を前にそう語るアレキサンドルは、部下の1人が砲撃で負傷する事態も経験した。彼は目下の課題について、こう話す。「私たちが所管する地域にはいくつもの支援団体がやって来ます。支援物資が安全、かつ確実に住民に届くよう、警察官が警護して回ることにしました」

大きな体を揺らしながら語るアレキサンドルの表情から、伝説の民兵集団「ザポリッジャ・コサック」のDNAを受け継ぐ警察部隊の強い意志を感じた。

11月17日午前10時前、巡回中のパトカーに無線が入った。「誰か警備を担当できる者はいるか?」

グレイポーレに複数ある検問所の1つを人道支援の車が通過したとの連絡だった。無線を受けたのはいつもライフル銃を携帯している機動隊員のルスラン(23)。ここから100キロほど南にあるベルジャンシク出身で、ロシア軍に占領された故郷には祖母と母、姉がいまだ脱出できずに残っている。来年結婚を予定しているが、砲撃が絶えないグレイポーレへの異動を快諾して赴任した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続落、1700円超安 中東情勢緊迫化

ビジネス

UBS、資本改革巡るロビー活動抑制を スイス議会が

ワールド

アングル:中東情勢が安保3文書改定に影響も、米軍の

ビジネス

日銀、3月会合で政策金利据え置く可能性 利上げ姿勢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 6
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 7
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 8
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 9
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中