最新記事

ウクライナ

【現地ルポ】「生き残りをかけた冬」...砲撃と酷寒を耐え忍ぶウクライナ最前線の生活

SURVIVING THE WINTER

2022年12月15日(木)18時30分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
ロシア軍の砲撃を受けた病院

ロシア軍の砲撃を受けた病院。生後2日の新生児が犠牲になった(11月24日、ザポリッジャ州ブリャンスク) TAKASHI OZAKI

<数百万人の命を脅かす人道危機が、ロシア軍にインフラを破壊された冬のウクライナに近づいている>

ロシア軍の占領地から5キロほど離れた市街地で11月8日11時52分、乾いた重低音が交錯した。音の正体は着弾したロシア軍のミサイルと、それを迎え撃つウクライナ軍のミサイルだ。

「そこを曲がって......伏せろ!」

支援物資を積み込んだワゴン車の中で怒号が響いた。叫んだのは前線の町に残る人々に食料やストーブを届けているボランティア団体のメンバー、マキシム(45)だ。アゾフ海に面する港町、ドネツク州マリウポリでリサイクルショップの店主をしていたが今年3月、ロシア軍に包囲された故郷から家族4人で脱出した。たどり着いたのは隣接するザポリッジャ州の州都ザポリッジャ。そこで空き倉庫を借りて、マリウポリの仲間と共に人道支援活動を始めた。

「ここにいるしかない。タカシ、伏せて」。車を飛び降りて筆者の隣で身を横たえたのは、ワゴン車を運転していたアルシニー(41)。社員250人ほどの建設会社を仕切っていた彼は、月収5000ドル超のリッチマンだった。携帯電話には家族と世界中を旅したときの写真が残っている。彼の会社はロシア軍の占領地内にあり、近づくこともできない。妻と子供たちをドイツに避難させ、前線に通う毎日だ。

221220ukraine01.jpg

砲撃を受け、建物の壁際に伏せるボランティアのアルシニー(11月8日、ザポリッジャ州グレイポーレ) TAKASHI OZAKI

筆者を含め5人のボランティアを乗せた車が砲撃を受けた町はザポリッジャ州のグレイポーレ。地名に意味を付すことが多いウクライナで、Гуляйполе(グレイポーレ)は「野原を散歩する」という意味を持つ。佐賀県とほぼ同じ2500平方キロもの広さがあるグレイポーレ地区には、小麦やヒマワリなどの畑を縫うように東西南北へ延びる幹線道路が走っている。のどかな名を持つウクライナ南東部の要衝は開戦以来、戦争の最前線になった。

この日、ボランティアのメンバーはグレイポーレの中心部にある住宅街を巡っていた。連日の砲撃でインフラ施設の多くは破壊され、水も電気もガスも途絶えていた。水については行政による給水車での配給や近くを流れるガイチュール川の水でしのいできた。

しかし、氷点下20度もの厳しい冬が予想されるウクライナで、暖房対策は死活問題だ。人口1万3000人だったグレイポーレに今も残るのは、避難する体力や経済力に乏しい高齢者を中心とした約2300人。彼らに薪ストーブやガスボンベ式のヒーターを届け、設置するのがボランティアの任務だった。

この団体がザポリッジャの工場に特注したストーブは1つ50ドル、ガスボンベ式ヒーターは1セット200ドル。国外からも広く寄付を募り、各100個ほどを無料配布してきた。

221220p42_UNA_chart_720H.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米司法省、ミネソタ州知事らを捜査 移民当局妨害の疑

ビジネス

米FRB副議長、パウエル氏支持を表明 独立性は「経

ビジネス

アングル:自動運転車の開発競争、老舗メーカーとエヌ

ワールド

米、ガザ統治「平和評議会」のメンバー発表 ルビオ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    122兆円の予算案の行方...なぜ高市首相は「積極財政…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 8
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 10
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中