最新記事

火星

「火星の薄い大気でも、風力発電は可能だ!」太陽光発電との組み合わせで6人活動できる

2022年12月26日(月)17時00分
青葉やまと

2022年4月24日、火星探査機インサイト、最後の自撮り。インサイトは、2018年着陸から多くの埃に覆われた...... NASA

<大気が薄い火星でも、風力発電は有望なエネルギー源となるようだ。とくに太陽光と相互に補完することで、安定した電力の生成が見込めるという>

火星の気候モデルを分析した最新の研究により、大気の密度が地球の1%しかない火星でも、特定の地域では風力による発電が見込めることが判明した。

NASAは火星での有人ミッションを将来の優先課題のひとつに位置づけている。居住区画を設け、宇宙飛行士たちが長期にわたって活動するうえで、電力の調達は重要な問題だ。

しかし、現状利用できる選択肢は、どれも単独利用で最適な効果を生むとはいえない。たとえば太陽光発電は、地球とほぼ同じ長さが続く火星の夜のあいだ、電力の生成が停止してしまう。原子力発電を持ち込むことも可能だが、一定のリスクが伴う。

そこで一部の科学者たちが注目しているのが、火星表面での風力発電だ。大気が薄い火星では不可能だとの見方が強かったが、最新の火星の気候モデルを用いてシミュレートしたところ、適切な設置場所を選べば十分な発電量を得られる見通しが立ったという。

米カリフォルニア州マウンテンビューのNASA・エイムズ研究センターでリサーチ・サイエンティストとして活動する、ヴィクトリア・ハートウィック博士らのチームが見解を示した。この内容をまとめた論文が12月19日、科学ジャーナルのネイチャー・アストロノミーに掲載されている。

太陽光の発電時間は1日の40% これを最大90%に延ばす

研究チームは、1997年から火星軌道上で観測を行ったNASAのマーズ・グローバル・サーベイヤー、および70年代のバイキング探査機によるデータを分析した。

これらの探査機が収集したデータを統合し、チームは地形、塵の分布、温度状況などの情報を得た。この情報もとに火星全域の風速をシミュレートし、さらに昼夜や季節に応じた変化を割り出した。

研究ではこの風速をから、現在商用化されているものを含め4種類のタービンのいずれかを設置するという想定のもと、6人の宇宙飛行士たちが500日間活動するのに必要な電力を賄えるかを検討した。結果、とくに太陽光と組み合わせた運用において、火星の複数の地点で実用に耐えるとの結論が得られたという。

論文においてハートウィック博士たちは、「重要なことに、提唱するタービンを太陽光アレイと組み合わせた場合、想定されるミッションに求められる電力を発電量が上回る時間帯の割合は、太陽光アレイ単体では約40%であるところ、火星の広い領域において60〜90%超となり、発電を安定化することができる」と結論付けている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中