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ウクライナ戦争

「ロシア敗北」という現実が近づく今こそ、アメリカが思い出すべき過去の苦い失敗

America’s Conundrum

2022年10月5日(水)17時07分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

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5月にバイデン米大統領はNATO加盟を目指すフィンランドとスウェーデンの首脳と会って支援を約束 CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

筆者が懸念するのは以下のような事態だ。まずは米国内で、30年前のソ連崩壊後に暴走したのと同じような政治勢力が復活する恐れ。ウクライナでロシアに勝ったのだから民主主義の優越は明らかだと豪語し、アメリカ流の民主主義を世界に輸出しようとする動きが強まりかねない。イラクやアフガニスタンでの失敗を悔い改めないネオコンや素朴な自由主義者が、またしても果たせぬ夢を追い求めて戦争を始める恐れがある。

今度の戦争で大儲けしたアメリカの軍産複合体は、惜しげもなく巨費を投じて世論を誘導し、中国を筆頭とする競合国が束になってもかなわぬほどの国防予算を承認させることだろう。

ロシアの脅威は減っても景気後退に直面するヨーロッパに、防衛予算を増やす余裕はない。だから軍事的には対米依存を強めるしかない。そうなるとアメリカでは、いわゆる「自由主義の覇権」を唱える人たちが、少なくとも一時的には勢いづくだろう。

それでは困る。ウクライナ戦争で学んだ教訓が無駄になる。それはどんな教訓か。

教訓その1は、それなりの大国が死活的に重要と見なす権益を脅かす行為は危険だということ。今回の場合、NATOの際限なき拡大がそういう行為だった。

勝てたとしても、それ以前に回避できた戦争

多くの外交専門家が指摘してきたとおり、NATO圏の漸進的な東方拡大は途方もないトラブル(2014年のロシアによるクリミア半島併合と、その後の事態)を招いた。回避できたかもしれない戦争で勝利を得たからといって、調子に乗って同じ過ちを繰り返してはならない。

教訓その2は、敵への脅威を増大させることの危険性だ。ウクライナ侵攻は、ウクライナが西側陣営に移ることを阻止する目的でロシアが仕掛けた予防的戦争と理解するのが最も妥当だ。もちろん予防的に戦争を仕掛ける行為は国際法で禁じられている。だがアメリカ主導でウクライナの軍事力強化が進むのを見たプーチンは、いま動かなければウクライナのNATO加盟を防げないと考えてしまった。

かつてのアメリカは、ベトナムが共産化したら周辺国も次々に共産化するというドミノ理論を唱えた。03年のイラクでは、サダム・フセインの脅威を意図的に誇張してみせた。同じように、プーチンのロシアはウクライナを「失う」ことの危険性を大げさに語ってきた。それは国家存続の危機であり、だから戦争で防ぐしかないと、ロシアの指導者は繰り返し語ってきた。

だがNATOによる軍事侵攻や民主化運動の波及に対するロシア側の懸念は、いささか誇張されすぎたのではないか。それでロシアは判断ミスを犯し、とんでもない泥沼にはまってしまった。

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