最新記事

中国

習近平の統治下で「中国は弱体化した」、なぜ続投が可能なのか

XI IS WHAT YOU SEE

2022年10月22日(土)14時25分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

221025p18_SKP_06.jpg

農村で過ごした下放時代(前列中央) BLOOMBERG/GETTY IMAGES

習は、総書記に就任した当時は平凡な実績しかなく、権力基盤もほとんどなかった。対立していた江派と共青団派の妥協案として選ばれたのだ。

既に、最もおいしいポストは全て押さえられていた。国有企業も民間企業もことごとく、どちらかの派閥と共生関係にあった。

そこで習は、自分の派閥を築いて忠誠心を高めるために、江・共青団派の財布である民間企業から搾取して、自分がコントロールしやすい国有企業に回した。江・共青団時代に任命された国有企業のトップは反腐敗運動で速やかに粛清され、後任に習の配下が置かれた。

ただし、李克強が各省庁を通じて支配している民間部門を締め付けることは、はるかに難しかった。習の意思で首相を任命することができれば、もっと簡単になるはずだ。

実は、習が国有企業を優遇する理由は、彼が毛沢東派だと主張するまでもなく説明がつく。

習は中堅時代に新聞の連載コラムの中で江の「改革」路線を踏襲し、民間資本はもとより「利益のための芸術」まで支持している。その時々の自分の目的にかなうイデオロギーなら何でも平気で選べるのだ。

習は勝てるのか。この10年の業績は惨憺たるものだが、勝算は大いにある。

習は全体主義の党を掌握し、党内での立場を強化してきた。2018年には国務院との共同管理下にあった武装警察部隊を中央軍事委員会の直属に。ゼロコロナ政策などが軍事クーデターといった権力闘争に勝つための非合法な企ての引き金になる可能性はあるが、標的はむしろ彼の政敵になりそうだ。

人格形成期に過酷な体験も

習は党内でも特に有能で強権的であることを証明してきた。2018年には国家主席の任期制限撤廃の憲法改正案を発表から15日でスピード採択。国の内外を問わず他人が確立したルールを好まない。習のこうした因習打破的な側面は吟味に値する。

中国の攻撃的な「戦狼外交」は世界に衝撃を与えたが、習がその元祖で筆頭格である点は見落とされがちだ。

習は副主席時代の2009年のメキシコ訪問中、人権問題で中国に批判的な国々を非難した。彼の露骨で過激な物言いは物議を醸し、すぐに官製メディアから削除された。

最近は演説での表現がどぎつく暴力的になっている。昨年7月1日の党創立100周年式典では、中国をいじめる国は「鋼鉄の長城に頭を打ち付けて血を流すことになる」と警告。そんな慎みのかけらもない物言いを習は一体どこで覚えたのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証G、26年度経常益目標2400億円以上 荻野

ワールド

イラン大統領と外相が死亡、ヘリ墜落で 国営TVは原

ビジネス

四半世紀の金融緩和、金利低下で企業経営の支えに=日

ワールド

南シナ海のスカボロー礁破壊、中国は国際調査受け入れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中