最新記事

インフレ

消費者物価10%上昇の英国、生活苦で性風俗の副業始める女性が急増した

2022年10月23日(日)10時38分
ショッピングバッグをぶら下げて歩く女性の影

オンラインでのセックスワーカーとして働くマーサさん(29)は、英国の生活費危機のために収入が減りつつあるという。生活費の急騰で売春に走る女性が増え、競争が激化していることが一因だ。写真はショッピングバッグをぶら下げて歩く女性ら。英中部ボルトンで2021年12月撮影(2022年 ロイター/Phil Noble)

オンラインでのセックスワーカーとして働くマーサさん(29)は、英国の生活費危機のために収入が減りつつあるという。生活費の急騰で売春に走る女性が増え、競争が激化していることが一因だ。

身元を伏せるため仮名を条件に取材に応じたマーサさんは「誰もが稼ぐのに必死で、少ない対価で多くのサービスを提供するようになっている」と語る。

「家計がさらに苦しくなれば、状況はさらに悪化すると心配している」とマーサさん。ここ数カ月で、収入は以前の1日250ポンド(約4万2000円)から150ポンドに減ったという。

マーサさんは昨年、人員整理で解雇された後にこの仕事を始めた。その後、小売業で販売アシスタントの仕事にも就いたが、出産に備えて貯金をしており、生活費が高くなった分を賄うために副収入が必要なのだと語る。

英国各地の慈善団体やセックスワーカーによる労働組合は、今年に入って性風俗業を開始・再開する人が増えていると報告している。同国では消費者物価指数(CPI)の上昇率が、主要7カ国(G7)で最高の前年比約10%に達するためだ。

売春の非犯罪化を掲げて活動する現・元セックスワーカーのネットワーク、英売春婦組合(ECP)では、6月に性風俗業を始めるための支援を求める相談者が30%も急増した。また慈善団体「ビヨンド・ザ・ストリーツ」によれば、性風俗業を再開・拡大する女性は増えているという。

女性セックスワーカーを支援する慈善団体「マンチェスター・アクション・オン・ストリート・ヘルス(MASH)」では、2021年12月から2022年4月にかけて新規の支援利用者が100人を超えた。四半期としては4年ぶり最多の数字だ。

性風俗業への参入者が増える一方、利用者の財布のひもが固くなればなるほど、従事者が不本意なサービスの提供を強いられる、あるいはより大きなリスクを取らざるを得なくなる恐れがあると支援活動家らは警告する。

「生活が苦しくなるほど、いつもならやりたくもないサービスを提供することになる」と、ECPの広報担当者ローラ・ワトソン氏は語る。

お金のための性行為は英国では合法だが、支援団体は、売春業への勧誘や手助けを禁じる法律によってセックスワーカーへの支援が阻害されており、性風俗業を始める人々をかえって危険にさらす可能性があると語る。

「誰にも相談することなく、初めて性風俗業に就くことになる――そのことが安全に及ぼす影響を強く懸念している」とワトソン氏は語る。

副業としての性風俗業

英国は世界第5位の経済大国だが、食料・エネルギー価格の上昇率は引き続き賃金上昇率を上回っており、今年の春、国内労働者の実質賃金の下落幅は2001年以降で最大となった。やむなく副業を探すようになった労働者は多い。

保険会社ロイヤル・ロンドンが最近行った調査によれば、英国では500万人以上の労働者が、高騰する生活費を賄うため副業を始めたという。

その中には性風俗業を選ぶ人もいる。就業時間が柔軟である上、一時的にせよ定期的にせよ、手っ取り早く副収入が得られるという魅力があるからだ。

ECPのワトソン氏は「多くの女性は他に仕事があるか失業手当の給付を受けており、収入を増やそうとしている」と語る。

「何とか最低限の生活費を賄おうと、街頭に立つ女性もいるだろう」とワトソン氏は言い、ECPネットワークの約70%は母親だと言葉を添えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ地上作戦控え空爆強化

ビジネス

英消費者信頼感、4月は2年ぶり高水準回復 家計の楽

ワールド

中国、有人宇宙船打ち上げ 飛行士3人が半年滞在へ

ビジネス

米サステナブルファンド、1─3月は過去最大の資金流
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中