最新記事

事件

安倍銃撃犯「山上容疑者」の動機をプロファイリングする

The Joker From Silent Hill

2022年9月23日(金)12時33分
北島 純(社会構想大学院大学教授)
映画『ジョーカー』

旧統一教会を恨む山上容疑者は「ジョーカー」(写真)に自らを重ね合わせ、元首相銃撃という犯行に及んだのか EVERETT COLLECTION/AFLO

<1300件以上のツイートと『サイレントヒル』『ジョーカー』、山上容疑者がネットに残した「足跡」から動機を読む>

「語られない感情が最も強い感情で、それは行動でしか表現されない。往々にして自分でも捉え難い感情が。捉え難いから言葉にならず、経過を見守るしかない」(@nnouu)

山上徹也容疑者が安倍晋三元首相を銃撃する10日前にリツイートした文章だ。山上は2019年10月に「silent hill 333」(@333_hill)というツイッターアカウントを開設し、1300を超える投稿をしている。元首相を暗殺したテロリストの心理が刻まれた資料だが、そこでは「語られていない」ものを含めて動機を解明することが必要だ。

山上のアカウント名は、ホラー映画『サイレントヒル』(06年公開)または原作の日本製ゲームに由来するとされている。

映画『サイレントヒル』は、カルト教団に対する復讐譚だ。米国東部の田舎町サイレントヒルで少女アレッサが魔女とされ、カルト教団の手で火あぶりにされる。全身やけどを負いながら救出されたアレッサはカルトと町民を呪い、町は業火に包まれ廃墟と化す。

そこに主人公ローズと、その養子で実はアレッサの血脈を継ぐ少女シャロンが呼び寄せられる。聖なる教会に立て籠もるカルト一派に手が出せないアレッサは、ローズを利用して教会に侵入、凄惨な復讐を果たす。

山上のツイートに映画『サイレントヒル』は一切登場しない。アカウント名を借用し、第三者を使った復讐劇という構図が実際の暗殺事件に酷似しているにもかかわらず、だ。

他方で山上は、事件直前に『カルトの子――心を盗まれた家族』著者で島根県在住のジャーナリストに手紙を送り、彼のブログに「まだ足りない」というハンドル名でコメントしていることを告白した。

「統一教会が信者を犠牲に築いて来た今を破壊しようと思えば、最低でも自分の人生を捨てる覚悟がなければ不可能」(20年12月12日)、「復讐は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ」(12月16日)という内容だ。

しかし、同じ12月中旬のツイートを見ると、コメントほどの激烈な投稿はない。山上はかつて別アカウントでツイッターを運用していたが教団幹部殺害を示唆したために凍結されており、再開設したアカウント(@333_hill)での書き込みは当初、抑制の利いた内容だった。山上の論理と心理はリツイートを含めて行間を読まないと分かりにくい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 

ワールド

インドのロシア産石油輸入、減少は短期間にとどまる可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中