最新記事

ウクライナ戦争

サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?

A WAR OF CYBER SUPERPOWERS

2022年9月22日(木)17時40分
山田敏弘(国際情勢アナリスト)
プーチンGRU演説

ロシア軍の情報機関GRUで演説するプーチン大統領 ALEXEI DRUZHININーKREMLINーSPUTNIKーREUTERS

<ロシアがウクライナに苦戦することになった重要な原因の1つは、「サイバー大国」として圧倒的な力を誇るはずの「電脳戦争」での大誤算にあった>

※2022年9月27日号(9月20日発売)は「ウクライナ サイバー戦争」特集。ロシア大苦戦の裏に、世界が知らないもう1つの戦場が......。西側ハッカー連合vs.ロシア軍の攻防を描く。

―――

今年7月21日の午後1時、ウクライナの大手ラジオ局「TAVRメディア」の2つのチャンネルからこんな放送が流れた。

「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が病院に運ばれて、深刻な状態にある。集中治療室に入っており、大統領の仕事はウクライナ最高議会の議長が引き継ぐ」

この放送内容は完全な嘘だった。ゼレンスキーは夕方にSNSのインスタグラムにこのラジオ放送がデタラメであると説明する動画をアップ。同ラジオ局はロシアのハッカーからとみられるサイバー攻撃によって乗っ取られ、フェイクニュースが流されたのだった。

この1カ月ほど前の6月8日には、反対にロシアのラジオ局がウクライナ側のハッカーに乗っ取られて、ウクライナ国歌と戦争反対の歌が流れる事態になった。ゼレンスキーに関するフェイクニュースは、それに対する報復ともみられている。

こうした工作は、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻の後に続発している情報工作やサイバー攻撃の一例にすぎない。

今回の侵攻前から、ロシアがウクライナを侵攻する際には大規模なサイバー攻撃を圧倒的な力で実施することが予想されていた。ロシアには世界有数のサイバー攻撃能力があると言われてきたからだ。

ところが、いざ侵攻が始まると、現場でロシア軍の能力の低さが露呈したのと同じく、サイバー攻撃も鳴りを潜めているように見受けられた。事実、専門家の中にもなぜサイバー攻撃が起きないのかと首をかしげる者も少なくなかった。

しかし実際には、ロシアとウクライナの衝突の裏で、サイバー攻撃の応酬という「見えない戦争」は繰り広げられていた。

「サイバー大国」ロシアは今回、確かに史上初めて、正規戦だけでなく非正規戦やサイバー攻撃などを組み合わせた「ハイブリッド戦争」をウクライナに仕掛けている。それが戦前に警戒されていたほど効果を表していないのは、ウクライナ側が時にロシアに負けないサイバー防衛能力を発揮しているからだ。そしてその事実は、リアルな世界での正規戦でロシア軍が予想外の苦戦を強いられる大きな要因にもなっている。

220927p18_YDH_04.jpg

米サイバー軍司令官のナカソネ陸軍大将 WIN MCNAMEE/GETTY IMAGES

米サイバー軍司令官のポール・ナカソネ陸軍大将は5月4日、テネシー州の大学で講演を行い、「ロシアからはサイバー攻撃など何も起きていないという見方は間違いだ」と断言した。「いくつもの破壊的な攻撃が起きている。ウクライナの衛星コミュニケーションも攻撃された」

ラジオ局乗っ取りのような敵を攪乱する目的の「情報工作」から、戦闘として行われるインフラなどに対する深刻な攻撃に至るまで、ネット空間でのウクライナとロシアの「サイバー戦争」とはいったいどのようなものなのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱自社長、ネクスペリア問題の影響「11月半ば過ぎ

ワールド

EUが排出量削減目標で合意、COP30で提示 クレ

ビジネス

三村財務官、AI主導の株高に懸念表明

ビジネス

仏サービスPMI、10月は48.0 14カ月連続の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中