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ウクライナ戦争

サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?

A WAR OF CYBER SUPERPOWERS

2022年9月22日(木)17時40分
山田敏弘(国際情勢アナリスト)

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ロシアは侵攻初日にビアサット社の衛星通信システムをサイバー攻撃した PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS

サイバー大国ロシアの攻撃

今回のウクライナ侵攻における最初の大規模サイバー攻撃は、まさに侵攻が始まった2月24日の早朝に起きた。先制攻撃を仕掛けたのはロシアだった。

その日、午前3時20分に、ウクライナの軍や警察などが利用する衛星通信システム「KA-SAT」で異常が検知された。午前6時前にロシアのウラジーミル・プーチン大統領がテレビ演説で侵攻を宣言したが、その直前の5時頃には、ロシアによる衛星コミュニケーションへのサイバー攻撃が本格化し、数時間にわたって通信障害が継続した。

同システムを運営する会社ビアサットによれば、数万の通信機器がダメージを受け、多くが修復不可能なレベルに破壊されたという。数万ともいわれるユーザーの通信に影響が出た。

ナカソネが指摘した「衛星コミュニケーションへの攻撃」とはまさにこのことである。これ以降、両国はさまざまなアクターが絡みながらサイバー戦を繰り広げている。

ロシアはこれまでも、情報機関などが中心となって、ウクライナをはじめとする国外へのサイバー攻撃を実施してきた。軍の情報機関であるロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)は、第85特殊任務総部門(GTsSS)や特殊テクノロジー総部門(GTsST)などサイバー部隊を抱えている。

また国内を中心に活動するロシア連邦保安局(FSB)にも情報セキュリティー部門(通称「センター18」)などのサイバー攻撃集団が存在する。対外情報機関であるロシア対外情報庁(SVR)のサイバー部隊も「コージーベア」と呼ばれ、各地でサイバー攻撃活動が確認されている。

加えて、今回の侵攻後は、隣国ベラルーシを拠点にロシアのために活動する「Ghostwriter(UNC1151)」といった組織や、民間からも「Gamaredon」「Killnet」といった34ほどの「活動家」組織が動いてきた。

ウクライナの政府機関や金融機関、援助団体のシステムなどが重点的に狙われ、食料や医薬品の供給網の妨害を狙った攻撃も確認された。多くの攻撃で、DDoS攻撃(大量のデータを送りサーバに負荷を与える攻撃)や、「ワイパー」と呼ばれるシステム上の情報を消去してしまうウイルスなどが使われたと報告されている。4月にはウクライナの政府機関が複数回ハッキングされ、機密情報や職員の認証情報(IDとパスワード)が盗まれた。

こうした攻撃は、戦時中のウクライナに混乱をもたらして政府機能を低下させることや、戦争継続の能力を支える「国力」を奪うことを目的にしたものと考えられる。

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