最新記事

生物

知りたくなかった......イルカはどうやって仲間を見分けているのか

2022年7月5日(火)18時06分
青葉やまと

イルカは固有の呼び名でも判断を行なっているようだ...... aristotoo-iStock

<個体ごとに名前のような鳴き声が割り当てられているが、もっと原始的な方法も併用しているようだ>

水族館の人気者のイルカは、仲間を意外な方法で見分けているようだ。個体を認識する方法のひとつとして、尿の味を確かめているという。イギリス・スコットランドの海洋学者たちが実験を通じ明らかにした。

実験では複数のイルカの尿を提示したところ、仲間の尿にとくに強い興味を示す傾向が観察された。リゾート施設で飼育されているイルカに対し、長く一緒に暮らした仲間の尿とそうでないイルカの尿とを少量ずつプールに注入したところ、馴染みのある個体のものにとくに強い興味を示したという。

また、これと同時に名前でも判断を行なっているようだ。人間同士が名前で呼び合うのと同じように、イルカも「シグネチャー・ホイッスル」と呼ばれる固有の呼び名をもっている。実験では、尿と一緒にいずれかのイルカのシグネチャー・ホイッスルを聞かせたところ、尿の排出主とホイッスルが一致した場合にとくに強い反応を示した。

このことから研究者チームは、イルカたちが少なくとも味覚と聴覚を組み合わせた複合的な手法で仲間を識別していると考えている。

研究は英セントアンドルーズ大学・スコットランド海洋研究所のジェイソン・ブルック氏らのチームが進め、米科学振興協会によるオンライン・ジャーナル『サイエンス・アドバンシズ』に5月18日付けで掲載された。

広い海で、仲間の認識に活用

実験はバンドウイルカを対象とし、5年以上飼育下にあり仲間と一緒に暮らしている個体たちに対して行われた。事前テストとしてプールに氷を浮かべ、強い興味を示した好奇心旺盛な個体を選抜している。

実験本番では、選抜されたイルカたちを個別にプールに移し、尿20ミリリットルをランダムな順番でプール中に注いだ。すると、仲間の尿を注いだときは、まったく知らないイルカのものを注いだときと比べ、約3倍の時間をかけて調べる行動がみられたという。イルカの嗅覚はほぼ退化していることから、匂いではなく味に反応したと考えられる。

研究チームは、このように味覚によって仲間を判断することは、広い外洋で仲間をみつけるのにとくに有用だと考えている。海中で放たれた尿はプルームと呼ばれる煙のような塊を形成し、しばらくその場に滞留するためだ。

論文のなかで研究チームは、「たとえ鳴き声が確認できない場合でも、イルカたちはプルームを残した主を認識することにより、その個体が直近で近くにいたのだということに注意を払うことができる」と述べている。

問題はなぜ味を知っているのかだが、この点について研究チームは、イルカの好奇心旺盛で社会的な性質が影響していると考えているようだ。イルカは仲間の性器を口でつついてコミュニケーションを取ることがあり、これが味を認識する機会にもなっているのではないかと論文は述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落、朝高後は利益確定 米FOMC前で

ワールド

欧州企業、中国供給網の多角化を加速=商工会議所

ビジネス

午後3時のドルは156円後半で小動き、米FOMC前

ビジネス

アクセンチュア、アンソロピックと提携拡大 従業員A
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中