最新記事

沖縄の論点

沖縄の少女たちの経験は日本の若い女性に起きているさまざまなことの濃縮版

LIVING WITH DESPAIR

2022年6月23日(木)11時25分
上間陽子(琉球大学教育学研究科教授)
沖縄

7MARU/ISTOCK

<絶望は簡単には癒やされない。なくならない米軍基地を前に正気でいられるのは、少女たちを調査し支援するという自分なりの実践があるから>

沖縄復帰50年目の朝は早起き。

なにが変わったのだろう、いや、なにもかわらないと、軍事を強化させられたこの50年のことをじっとり考えます。

「おにわ」で自分たちができることを重ねることができるから正気でいられるのですが、それもやっぱりぎりぎりだなぁと思います。

朝から暗い気持ちで、おにわに出勤しました。

――「お庭日記」2022年5月15日

◇ ◇ ◇


復帰50年に当たり、一番考えたことはやっぱり「基地がなくならない」ってことです。記念式典でも基地の縮小、返還に向けて進めていくみたいな話をしていたけど、要らないところをちょっぴり返しているのをすごく大げさに言っている。

220628cover.jpg政治家たちがスローガン的な言葉を言えば、それを新聞が書き、内実が伴わない言葉ばかりがあふれている。米軍基地が汚染源とみられる水道水や河川の汚染が問題になっても、立ち入り調査もできない。そんなことが強烈に、ずっと起きている。

『海をあげる』で基地や辺野古のことを書きました。「沖縄の声が人々に届いたと思うか」と聞かれれば、読者からの反応の一つ一つが私を喜ばせたり傷つけたりはしない。そういうもので癒やされるような絶望感ではない。

正気でいられるのは、私には具体的な実践があるからです。調査をしたり本を書いたり、共同代表を務める「おにわ」(若年出産シングルマザーの保護施設)でもやることがいっぱいある。調査をした女の子たちは今みんな落ち着いていて、5年たつと人は変わるんだなあという感覚もある。つらいことがあっても、彼女たちは何とか生きていく。だから私もまだ人を信じられるんです。

1990年代後半からの東京での大学院時代、女子高生の調査をしました。社会学者の宮台真司さんが「援助交際という性的売買をしても傷つかない子たちが出てきた」という議論をし始めた頃です。

でも私は、本当かな、そんなに性規範って軽やかかな、と思っていた。23区内の女子高に3年間調査で入ったのですが、彼女たちの話を聞いて「性規範から自由な女の子たち」なんて嘘だと思った。援助交際でオヤジたちからどれくらいお金を取ったかという話を教室でパフォーマンスのようにしながら、実際にはじっとり傷ついてたりする。相対的に彼女たちは、声を聞かれていないんです。

女の子たちの現実を書く

沖縄の少女たちの経験は、日本の若い女性に起きているさまざまなことの濃縮版だと思う。環境の厳しい地域ほど、下の階層にいる人や若い人の状況はきつくなる。東京の女子高生の問題が沖縄では中学生に表れる。結局、早く大人になるんです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪6月就業者数は小幅増、予想大幅に下回る 失業率3

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 

ワールド

トランプ政権、加州高速鉄道計画への資金支援撤回 「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中