最新記事

ベトナム

ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?

LONG-BURIED WAR MEMORIES

2022年5月18日(水)16時53分
トラビス・ビンセント

若い世代が知るべき歴史

韓国ベトナム戦争退役軍人会は、ベトナムのゲリラとの武力衝突のやむを得ない結果だったと、故意の残虐行為の疑いを否定している。しかし、市民団体などは韓国軍が民間人に対して約80件の虐殺を行い、約9000人を殺害したと主張している。

韓国の活動家やジャーナリスト、研究者らは、戦争の公式な記憶に異議を唱える草の根運動「ごめんなさい、ベトナム」を展開(後の韓国ベトナム平和財団)。彼らの調査から、韓国兵による残虐行為は偶発的なものではなく、無防備な子供や女性、年配者を狙った組織的なものだったことが明らかになった。

08年にフーイェン省出身の作家チャン・ダイ・ニャットが、自伝的短編集『壊された人生』を出版した。ニャットの父親は名前も分からない韓国兵で、母親をレイプした人物。

ニャットのようにベトナム戦争中に韓国兵にレイプされたとされる数万人のベトナム人女性の子供は、ベトナム語で「ライダイハン」と呼ばれている。『壊された人生』の内容は国営メディアでも広く報道された。

しかし、ベトナムの一部の若者にとって、過去に韓国がベトナム戦争に参戦したことと、韓国兵を描く21世紀の韓国ドラマは別の話だ。年配の世代の不安は理解しているが、多くの若者は韓流ドラマがテレビで放映されることを制限する必要はないと考えている。

ハノイ在住の翻訳家のハンは『太陽の末裔』とそれをめぐる批判のおかげで、これまで意識していなかった歴史の遺産に気が付いた。

「ベトナムもアメリカやフランス、中国、日本と(歴史的な)問題を抱えてきた。放送禁止で解決できるのなら、韓国の1つのドラマだけでなく、そうした国のドラマを全て禁止するべきだ。兵士が登場するアメリカや日本の映画も禁止するというのだろうか」

ただし、韓国とのパートナーシップを深めることも重要だが、歴史的な不正義についてベトナムの若い世代が無知なままではいけない。許すということは、忘れるということではないのだ。

「韓国兵は加害者というだけではない」と、ツアーガイドのリは語る。「彼らも被害者かもしれない。負傷したかもしれない。彼らは自分の意思でここ(ベトナム)に来たわけではない。殺せと命令され、そうしなければ自分が上官に殺されただろう。そして、彼らも枯葉剤の被害を受けたかもしれない」

自ら歴史を調べたリは、ある数字を知った。ベトナム戦争で命を落とした韓国軍兵士は5000人以上。負傷者数は計り知れない。

©2022 The Diplomat

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、4月1日からガソリン輸出禁止措置 副首相が

ワールド

米トマホーク850発以上使用、イラン攻撃4週間 国

ワールド

アングル:米民主党、牙城カリフォルニア州の知事選で

ワールド

アングル:米の中東関与の隙突く中国、台湾は軍事圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中