最新記事

ベトナム

ベトナムと韓国の歴史問題「棚上げ」の思惑はなぜ一致したか?

LONG-BURIED WAR MEMORIES

2022年5月18日(水)16時53分
トラビス・ビンセント

220524p46_BTN_04.jpg

歴史を学ぶことは未来への重要な基盤になる(ホーチミンの学校) GREGOR FISCHERーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

「うちの子たちは韓国ドラマに夢中だ。国営テレビが韓国ドラマばかり流すからだ。子供たちは現代の韓国を絶賛するけれど、韓国がそんなに急成長を遂げることができたのは、ベトナム戦争に多くの兵士を派遣するのと引き換えに、アメリカから莫大なカネをもらったからだ。子供たちはそれを知らない」

「毎年、(ベトナム戦争で)アメリカに勝ったことを祝うたびに、オーストラリアやフィリピンや韓国とも戦った話をするようになった」と、ニャンは言う。「重要なことなのに、無視されてきたからだ」

フーイェン省の大学院生で、メディア学を専攻するロンは、オンラインから始まった『太陽の末裔』論争にとても驚いたという。「あのドラマが問題になるまで、自分の国の歴史を知らなかった」とロンは語る。「ベトナムは被害者なのだから、この問題について声を上げるべきだ」

だが、ベトナム政府も韓国政府も歴史的問題は棚上げにして、経済協力を優先したがっている。ベトナム語の外交関連出版物も、韓国と南ベトナム政府が密接な関係にあったことには言及していない。

韓国では、ベトナム戦争中の残虐行為は教科書に記載がなく、大韓民国歴史博物館や戦争記念館のベトナム戦争に関する常設展示でも触れていない。過去には韓国の参戦を称賛した大統領もいる。

今回、韓国、イギリス、アメリカ、カナダの7大学の韓国人の国際関係学者に、韓国政府がベトナム戦争について沈黙していることに関してコメントを求めたが、返答はなかった。

ベトナム戦争で韓国軍が犯した戦争犯罪が韓国のメディアで取り上げられるようになったのは、1990年代以降だ。アルバータ大学のビッキー・ソンヨン・クォン博士によると、韓国ではベトナム戦争の記憶について、今なお論争が続いている。

朴正煕政権時代は、ベトナムへの軍事介入をめぐる言説は、国民の根深い反共感情と表裏一体だった。ベトナムに参戦した韓国兵は、国家の繁栄に貢献し、共産主義の国際的な広がりを食い止めたと評価された。

2009年にはベトナム戦争の韓国人戦没者を追悼する法案が韓国国会で可決されたが、ベトナム政府はいつになく強く反発した。このような公式の見解に加えて、韓国の大衆文化はベトナム人を「非人道的な敵」として描いてきた。

市民団体や個人が過去の犯罪を償おうと積極的に活動しているにもかかわらず、ベトナムで行われた虐殺を韓国政府が公式に認めたり謝罪したりしたことはない。ODAを実施する政府機関の韓国国際協力団(KOICA)を通じて、かつて韓国軍が占領していた地方の学校や病院を支援しているが、過去の残虐行為に対する補償だとは明言していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米6月雇用、14.7万人増と予想上回る 民間部門は

ワールド

ロシア、ウクライナ徴兵事務所に空爆 オデーサ港でも

ビジネス

米新規失業保険申請6週間ぶり低水準、継続受給件数は

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中