かつて日本の「敗戦」を決定づけた要衝・ガダルカナルで今、中国がやっていること
A GAME-CHANGING DEAL
だが、今後どうなるかは保証の限りではない。中国は18年にバヌアツと軍事基地、20年にパプアニューギニアと「漁港」の建設に向けて協議を行った。スリランカのハンバントタ港とパキスタンのグワダル港の運営権を確保し、カンボジアのリアム海軍基地でも活動している。
これにソロモン諸島が加われば、中国の軍事的影響力が及ぶ範囲は一段と広がる。
中国は即座に軍事基地の建設に着手するような挑発的な行為は控えるだろう。だが長期的な展望の下に戦略的ネットワークの構築を着々と進めているのは確かだ。
ソガバレは「オーストラリアはわが国が選んだパートナーであり、オーストラリアの国家安全保障を脅かすようなことはしない」と断言しているが、ただのリップサービスにしか聞こえない。
ソロモン諸島が安全保障で中国を頼りにするなら、アメリカとその同盟国は太平洋地域への関わりを見直さざるを得ない。
それを端的に示したのが、米上院が3月29日に開催した「自由連合盟約」(COFA)に関する公聴会だ。COFAはアメリカがマーシャル諸島、ミクロネシア連邦、パラオと結んでいる経済・軍事協力の取り決めで、23年以降に順次期限を迎える。
上院の一部議員はCOFAの更新に向けた交渉が一向に進展しないことに業を煮やしていた。ソロモン諸島と中国の協定が明るみに出たことで危機感を募らせた彼らは、公聴会でCOFA交渉の進展状況を確認し、早急に合意をまとめるようバイデン政権をプッシュすることにしたのだ。
この動きが物語るように、ソロモン諸島の協定をきっかけにアメリカは太平洋諸島への関与を深めるだろう。今のままでは中国が太平洋地域で今回のような協定を次々に結ぶ恐れがあるからだ。それを防ぐためには、アメリカとその同盟国は太平洋戦略を練り直さなければならない。
中国は願いをかなえてくれる「ランプの魔人」か
ソロモン諸島と中国の協定は、中国がつかみ、アメリカが失った数々の外交上のチャンスの積み重ねの上に成立した。アメリカは93年にソロモン諸島の大使館を閉鎖。今年2月にようやく再開を発表したが遅きに失した。一貫性も緊張感も欠いた外交姿勢では、太平洋地域で中国に出し抜かれても仕方がない。
アメリカとその同盟国が太平洋地域を軽視してきたツケはあまりに大きい。ソロモン諸島の野党指導者マシュー・ワーレイの言葉を借りれば、ソガバレは中国を「いつでも呼び出して願いを聞いてもらえるランプの魔人のようなもの」とみている。
ソガバレは中国と協定を結び、魔人をランプから解き放とうとしている。ソロモン諸島と地域全体が被るその代償は、ソガバレの目算をはるかに上回る恐れがある。
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