最新記事

フィギュアスケート

ジュニア卒業に4年、世界王者まで7年 早熟の天才・宇野昌磨が「チャンピオンへの階段」を登った日

2022年4月15日(金)18時15分
茜 灯里(作家、科学ジャーナリスト)
宇野昌磨

世界屈指の難易度のプログラムをほぼ完璧に滑り切り、世界選手権で優勝を果たした宇野選手(3月26日、仏モンペリエ) Juan Medina-REUTERS

<2大会連続での五輪メダル獲得など輝かしい実績を積み上げる宇野選手だが、そのキャリアには苦労も多い。「天才スケーター」として名を馳せた小学生時代から頂点に至るまでの道のり、世界選手権を制した3つの要因を紹介する>

北京五輪、世界選手権と日本選手が大活躍した今シーズンのフィギュアスケートは、現在エストニアのタリンで行われている世界ジュニア選手権(17日まで)を最後に閉幕する。

7年前の2015年に同じ場所で行われた世界ジュニア選手権で、高橋大輔、織田信成、小塚崇彦、羽生結弦に続く日本男子5人目のジュニア王者となったのが、今年の世界選手権を制した宇野昌磨だ。

宇野は小学生の頃から「天才スケーター」として名を轟かせていた。平昌五輪(銀)、北京五輪(銅)と二大会連続のオリンピックメダリストで、世界選手権では今年の金以外にも2度の銀、四大陸選手権で金を獲得している宇野のキャリアは輝かしい。だが、ジュニア王者になるまでに4年、世界王者になるまでには7年の月日が必要だった。その道のりは、決して順風満帆なばかりではなかった。

宇野が今年、世界王者になれた勝因は、①コーチとの二人三脚、②靴への信頼、③リンクメイトの存在と考えられる。個々の事情を解説する前に、まずは念願の世界王者の座を掴むまでの足跡を振り返ってみよう。

思いのほかトリプルアクセルに苦戦

ノービス時代(スケート年齢[※]で9歳以上12歳以下)の宇野は、男子では小塚崇彦以来2人目となる全日本ノービス選手権4連覇を果たした。試合での強さもさることながら、「フィギュア王国・愛知」で育ちアイスショーやシニア試合のエキシビションに数多く出演していたため、フットワークのよい踊り心あふれる演技を披露する機会が多く、早くからファンに注目されていた。
※スケートシーズンは7月1日に始まり、翌年6月30日に終わる。クラスを規定する年齢は、シーズン開始直前の6月30日時点の満年齢が対象となる。

2010年のバンクーバー五輪前の特集番組では、12歳の宇野が「次のオリンピックメダル候補」として紹介された。伊藤みどりや浅田真央も指導したコーチの山田満知子は「このまま順調に伸びていけば、それ(14年のソチ五輪出場)が見えてくるんじゃないでしょうか」とテレビカメラの前で語った。

中学生になってジュニアクラスに上がると、これまで順調だった宇野の成長の前に壁が現れた。山田コーチとともに指導する樋口美穂子コーチが振り付けるプログラムは、宇野の表現力や踊りの上手さに磨きをかけた。だが、世界ジュニア選手権には日本代表として毎年出場していたものの、ジャンプの習得に苦心することになるのだ。

当時は、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を習得して世界ジュニア選手権で好成績を修めてジュニアクラスを卒業するというのが、男子の有力選手の王道だった。宇野は試合でトリプルアクセルを成功させることが、なかなかできなかった。

とはいえ、練習量が人一倍多い宇野は、一度身につけたジャンプは試合でほぼ失敗せずに飛べるようになるのが強みだ。飛距離が長く余裕のあるダブルアクセルを飛んでいたこともあり「トリプルアクセルの習得には、さほど時間はかからないだろう」と、関係者やファンは楽観視していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 8
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中