コラム

羽生結弦選手が卒論で語るフィギュア採点の未来

2021年11月09日(火)11時45分
羽生結弦

2020年四大陸選手権に出場し、優勝した羽生選手(2020年2月7日、韓国・ソウル) Kim Hong-Ji-REUTERS

<「審判の目による採点は限界がある」と選手から不満の声が上がることもあるフィギュアスケートだが、羽生選手は、自らの実験によって「科学的に解決できる可能性がある」と示した。その研究内容と着眼点の素晴らしさを紹介する>

夏の東京五輪が終わり、2022年2月4~20日に北京で行われる冬季五輪がほどなく近づいています。各国の各競技で、今まさに代表選手の選考が行われています。

開幕100日前にあたる先月27日にアメリカの大手データ会社・グレースノート社が発表した「各国のメダル予想」によると、日本は金3個を含む計13個で国別11位。

日本人で金メダル候補として名が挙がっているのは、前回の平昌五輪の銅メダリスト・高梨沙羅選手(ノルディックスキー・ジャンプ女子)、今年の世界選手権覇者・戸塚優斗選手(スノーボード男子ハーフパイプ)、昨年のX Gamesで優勝した鬼塚雅選手(スノーボード女子ビッグエア)です。

ソチ、平昌と五輪二連覇し、三連覇の期待がかかるフィギュアスケート男子シングルの羽生結弦選手は銀、同種目で前回銀だった宇野昌磨選手は銅と予想されています。北京五輪の金は、平昌五輪5位の後、国際試合で13連勝したネイサン・チェン選手(米国)との読みです。

もっともチェン選手は、今シーズン最初の国際A試合(スケート・アメリカ)で連勝はストップ。3シーズンぶりに敗退して3位でした。国際試合で世界初の4回転半ジャンプの成功も期待される羽生選手は、初戦のNHK杯を怪我で欠場することになりました。けれど、北京五輪までは時間がありますし、大舞台での強さは折り紙付きです。日本男子は、宇野選手も調子をあげていますし、若手有望選手には今年の世界選手権で銀を獲得した鍵山優真選手らがいます。男子シングルのメダル争いに日本選手が絡むことは間違いなさそうです。

勝つために必要なのは、より質の高いジャンプ

北京五輪では平昌五輪からルールが変更されて、メダルを獲得するためにはさらに正確なジャンプと、技術と表現力のバランスの良い演技が求められることになりました。もっとも、「審判の目による採点は見逃しもある」と選手から不満の声が上がることもあります。そのような状況の中、今年3月に、羽生選手はただ文句を言うのではなく「科学的に解決できる可能性がある」と自ら実験で示しました。

関係者とファンに驚きをもって迎えられた、羽生選手の研究論文「無線・慣性センサー式モーションキャプチャシステムのフィギュアスケートでの利活用に関するフィージビリティスタディ」を紹介する前に、まずはフィギュアスケートのルールについて概観しましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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