最新記事

フィギュアスケート

【動画】ショートプログラム歴代最低の3点!──羽生結弦と真逆の演技はこれだ

2018年2月23日(金)18時30分
ジャスティン・ピーターズ(ジャーナリスト)

2016年のジュニアグランプリでエルールが最低点を出したショートプログラムの最後 Screenshot via YouTube

<スポーツ取材ベテランの筆者が、男子フィギュアで歴代最低点を出した選手のファンになった理由>

フィギュアスケート男子シングルの世界歴代最高得点は、平昌オリンピックで金メダルを取り連覇を果たした日本の羽生結弦がもっている。2015年のISUグランプリファイナルで出した330.43点だ。ショートプログラムとフリーの記録も羽生のもので、それぞれ112.72と223.20だ。

では、過去最低は? それは、2016年に日本の横浜で開催されたISUジュニアグランプリシリーズに出場したインド人選手、クリシュナ・サイ・ラフール・エルールの13.09点だ。ショートプログラムは3.02点、フリーは10.07点。羽生と同じトリプル記録だ。

エルールは、ちょうど羽生の対極にある。写真で言えばポジに対してネガ。そしてエルールもやはり賞賛に値する。エルールを初めて見た3年前からこれまでに、彼は私が最も愛するスポーツ選手の一人になった。それがなぜかを説明しよう。

エルールはインドのハイデラバードの出身で、初めての国際大会に出るため横浜にきたときはまだ14歳だった。ISUの記録によれば、彼の趣味は水泳とジョーク。スケート歴はたった1年で、プログラムの振り付けは自己流だ。

ほとんどすべてのジャンプを失敗

最低点の演技の録画を見つけたとき、恥辱にまみれて滑る彼の姿を見ることになるのではないかと不安だった。だが、心配する必要などなかった。彼はほとんどすべてのジャンプを失敗し、スピンもフラフラ、彼自身の手になる振り付けはあまりにもベーシックだったが、エルールは国際舞台で戦うことを心から楽しんでいた。大勢の観客の前で滑ることを楽しみ、観客も楽しくなって彼を応援した。

エルールの得点が低いのは当然だ。初心者が世界トップの選手に挑戦するようなものだった。試合後のインタビューで、エルールは毎日3時間「ローラースケート」で練習をすると言った。ハイデラバードにはスケートリンクがなかったのだ。

だが、彼は決して恥さらしなどではなかった。オリンピックなどの試合の大きな魅力は、選手が自らの限界を超えようとすることにある。その点で、エルールは実によくやったと言える。洗練されたトップ選手から失われがちな、素朴で純粋なスケーティングの喜びで観客たちを魅了した。ISUのコメンテーター、テッド・バートンは感嘆して言った。「彼には技術もない、時間もない、他の選手が持っている多くのものがない、しかし心は同じだ」

採点を待っていたエルールは、10.07点という得点に顔を輝かせた。歴代最低点だが、個人最高点。お祝いに値する。その後、大会で彼を見かけたことはないが、もう戻ってこないのだろうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

© 2018, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中