最新記事

ロシア

ロシア暗号放送が電波ジャックされ、江南(カンナム)スタイルを奏でる

2022年2月4日(金)12時25分
青葉やまと

なお、仮面の画像は無政府主義者や反体制側の象徴として用いられることがあり、また、チェルノブイリ原発事故は旧ソ連ウクライナ共和国領内で発生している。あるツイッターユーザーはスペイン語のツイートを通じ、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まっている事態を受けての(抗議の意味を込めた)電波ジャックではないか、との見方を示した。


秘密めいた送信局 軍用通信や核関連など諸説

局は以前から、無線愛好家や暗号好きな人々の興味の的となってきた。ブザーのような特徴的な音を繰り返すことから、通称「ザ・ブザー」、あるいは旧コールサインに由来して「UVB-76」と呼ばれている。

放送は雑音に混じり、船の警笛を短く繰り返したような「ブーッ......ブーッ......」というブザー音を延々と流している。また、月に1回から数十回ほどの頻度で男性の声が割り込み、数個のロシア人名と数字を告げる。チャンネルを聴取する無線ファンたちは、人名はその頭文字でアルファベットを示す「フォネティックコード」ではないかと推測している。

通信の目的は不明だ。遠隔地のスパイに指令を与えているとの説のほか、軍用衛星通信のバックアップではないかとの指摘まで、複数の可能性が議論されている。平和なところでは、電離層での電波の反射の変化を測定する大気研究の一環だともみられている。

一方、極端な説としては、核ミサイルの発射トリガーだとする見方がある。いわゆる「デッドマンズ・スイッチ」と呼ばれるもので、ロシアが何者かに攻撃を受けて反撃不能になった場合、短波局のブザーが途切れたことを受信局が検知し、核ミサイルを発射するというものだ。

一方、こうした可能性は低いとの指摘もあり、詮索好きな陰謀論者たちの耳目を集める目的で設置された単なるデコイ(おとり)だとする冷めた見方も存在する。

旧送信所への侵入者が見たものは

送信局は長らくモスクワ近郊に設置されていたが、現在は同じ西部のエストニア国境付近に移転している。英デイリー・メール紙は2014年、旧送信所跡に侵入したという学生の体験記を掲載している。

この学生は打ち捨てられた軍事基地に足を運び、敷地内の旧送信所にある地下壕のような空間に足を踏み入れたという。すると、そこは廃墟特有の「非常に薄気味の悪い」空間が広がっていた。いくつかの部屋があり、荒れた室内には引きちぎられたケーブル類や、この通信所の運用停止に関する書類などが散乱していた。

さらにこの学生は、送信所の周囲で明らかに不審な人物たちを目撃したとも明かしている。「森にしか繋がっていない道から自転車に乗った男が現れ、何の荷物も持っていないその男は、その先数キロ以上にわたって何もない平原の方へと消えていった。」

レポートからはまるで、市民に扮した何者かが旧基地の監視を続けているかのような印象すら受ける。「2人目の不気味な人物は40代半ばの女性で、乳母車を押していた。町の女性が散歩に出ているのかとも思ったが、すれ違いざまにみると乳母車は空っぽだった。」「誰が空の乳母車を押し、軍事基地に散歩に向かおうなどと考えるだろうか?」

局は「ILOTICIN 36 19 69 46」などの謎めいたメッセージを発信しているが、これまで誰も解読に成功していない。その目的を秘密のベールに包んだまま、今日も規則的なブザー音を響かせている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 和解への

ビジネス

ECB、インフレ鈍化続けば6月に利下げ開始を=スペ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 9

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中