最新記事

ロシア

ロシア暗号放送が電波ジャックされ、江南(カンナム)スタイルを奏でる

2022年2月4日(金)12時25分
青葉やまと

ウクライナ侵攻の可能性への抗議の電波ジャック?  David Marugan-YouTube

<スパイ向けの指令ともいわれるラジオ放送から、突然のダンスナンバー。愉快犯による電波ジャックから緊迫のウクライナ情勢と絡めた説まで、さまざまな推測が飛び交った>

ロシアで最も不可解な短波ラジオ局のひとつに、「UVB-76」がある。1982年から放送を続けており、奇妙なことに放送内容はほぼ「ブーッ......ブーッ......」という短いブザー音のみだ。ときおり人の声が入り、数字や人名などを読み上げる。その目的は謎に包まれており、ロシアスパイへの秘密指令用とも、終末に備えた核の制御コードとも囁かれている。

このミステリアスな放送局が1月、突如として奇妙な振る舞いに走りはじめた。最初の異変が秘密通信の愛好者たちを驚かせたのは1月15日のことだ。それまで数秒置きに単調なブザーを鳴らしていた同局が、不意に『江南(カンナム)スタイル』を放送した。同曲は2012年に世界的ブームを巻き起こした、いわずと知れたK-POPのヒットソングだ。

秘密めいた短波ラジオとダンスナンバーの場違いな組み合わせは、世界に混乱と冷笑をもたらした。カナダのヴァイス誌は、「乱数放送局のUVB-76が、ロシア諜報部隊の通信手段と疑われる存在を一時休止し、『江南スタイル』を響かせる」として取り上げ、突然の異状を報じた。

UVB-76 'The Buzzer' 4625 kHz: Oppan Gangnam style


こちらはライブ UVB-76/The Buzzer (4625Khz) LIVE

ロシア国営通信のスプートニクでさえ混乱した模様で、「これは世界の終末か、はたまた海賊放送がパーティーの準備をしているのか?」と訝しむ。

数日後に混乱再び ウクライナ情勢での抗議目的か

放送から5日後となる1月20日になると、さらに手の込んだ乗っ取りが発生する。放送された音源を周波数帯ごとの成分を可視化するソフトウェアで分析したところ、音域の分布図を利用する形で、ネットで有名な画像ネタが仕込まれていたことがわかった。

見る者を苛立たせるようないわゆる「ドヤ顔」として有名な「トロールフェイス」の図案や、映画『Vフォー・ヴェンデッタ』から派生した仮面の画像などが検出されている。放射線管理区域を示す記号もみられた。

一連の不可思議な放送内容は話題を呼んだが、暗号放送局がなにか特異なメッセージを発信しようとしていた可能性は低いようだ。第三者が興味本位で電波ジャックしたものとみられている。放送は現在復旧し、再び単調なブザー音を送り出している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター

ビジネス

シンガポールのテマセク、事業3分割を検討=ブルーム
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中