最新記事

ウクライナ侵攻

【ウクライナ侵攻軍事シナリオ】ロシア軍の破壊的ミサイルがキエフ上空も圧倒し、西側は手も足も出ない

‘They’re So Destructive’: Russian Missiles Could Dominate Ukraine’s Skies

2022年1月21日(金)17時56分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者・米国防総省担当)
イスカンデル

空の米軍優位は終わったかもしれない(写真は、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」。2015年の国際展示会で) Sergei Karpukhin-REUTERS

<ロシア軍はウクライナの首都上空を埋め尽くすほどのミサイルを援護に使いながら、ウクライナの奥深くまで進軍するだろう。空からの攻撃を得意としてきた米軍やNATO軍はもはや、近づくこともできないかもしれない>

アメリカの複数の当局者は、ロシアのウクライナ侵攻のやり方について懸念を募らせている。ロシア軍がウクライナに侵攻するときは、多数のミサイルが地上部隊を援護するだろう。一斉発射のミサイルが、ウクライナ首都キエフの上空を覆い、米軍やNATO軍の航空機は近づけなくなる。ウクライナの空港や滑走路、地上の防衛部隊も大打撃を受ける可能性が高い。

今週TikTokに投稿された複数の動画によれば、ロシアは既に、シリアで使用した核弾頭搭載可能な短距離弾道ミサイルシステム「イスカンデル」を前線に配備しているようだ。ミサイルは防水シートに覆われているものの、複数の兵器専門家がその輪郭から「イスカンデル」であることを特定した。

「イスカンデル」は新型コロナウイルスのパンデミックが発生した頃に、旧式の短距離弾道ミサイル「トーチカ」に代わって導入された。改造トラックの荷台から発射でき、ロシアの最新型レーダーシステムと連携させた場合、標的から約9メートル以内の高い命中精度を誇る。

だがもっと懸念されるのは、そのミサイル防衛システムを回避する能力だ。イスカンデルは空中で軌道を変えることができ、敵のミサイル防衛システムをかいくぐるためにデコイ(おとり)を撃つ機能も備えている(戦闘で使用されたことはまだないが)。

首都キエフも射程内か

ウクライナ国防省は1月19日、ロシアがウクライナとの国境近くにイスカンデル36基を配備し、その一部はウクライナの首都キエフを射程内に収めている可能性があるとの分析結果をメディアに提供した。

衛星画像の分析サービスを提供するマクサー・テクノロジーズがフォーリン・ポリシー誌に提供した画像からは、ロシアがウクライナとの国境近くの軍事訓練地ポゴノボに、戦車やミサイル発射装置の配備を進めていることが見て取れる。

イスカンデルの発射台からは、弾道ミサイルと巡航ミサイルの両方を発射することが可能で、専門家は、ロシアは簡単にウクライナの防空能力を圧倒することができると考えている。ロシアはさらに、長距離防空システムの「S400」を前線に配備する可能性もあるとみられる。

米シンクタンクのランド研究所でロシア軍の研究をしているダラ・マシコットは、「イスカンデルは、相手に壊滅的な打撃をもたらす」と指摘する。「飛行場や軍の基地などの標的に対して用いられ、その破壊力はかなりのものだ」

だが専門家たちが真に注目しているのは、イスカンデルと同時に用いられる可能性がある、そのほかの武器だ。たとえば自走式多連装ロケットランチャーBM27「ウラガン」や、戦車に搭載可能な自走火炎放射システム「TOS1」などだ。「(これらの武器が使われれば)ウクライナの防衛能力に大きな打撃と混乱をもたらすことになるだろう」とマシコットは述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中