最新記事

米社会

インターンなしには企業も政府も存続不能、「ブラックすぎる」アメリカの実情

WASHINGTON RUNS ON INTERNS

2022年1月14日(金)17時33分
ロビー・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)、アナ・ウェバー(フォーリン・ポリシー誌インターン)
政府機関インターン

JUPITERIMAGESーLIQUIDLIBRARY/GETTY IMAGES PLUS

<無賃労働を強要し、貧しい学生の就職の可能性を閉ざす。アメリカの不公平な制度はなぜ改善されないのか>

限界が来たのは2016年の春だった。カルロス・マーク・ベラはワシントンで学ぶ多くの大学生と同じように、学業とアルバイトとインターンシップを掛け持ちしていた。全ては卒業後、政府機関で働くためだった。

米連邦議会と欧州議会でインターンを経験し、大学を卒業するときには修士号を同時に取得する見込みで、ホワイトハウスのインターンにも採用された。ベラの経歴は実に見事だが、1つ難点があった。インターンには給料が出ないのだ。

親が裕福ではないので、生活費は自分で稼がなければならない。かといって就職のことを考えれば、無給でもインターンシップをしないわけにはいかない。

さらにベラは米軍予備役の訓練も受けていたから、やらなければならないことは雪だるま式に増えた。学業を含めた拘束時間は週80時間を超えた。「常にあっちへこっちへと走り回り、居眠りしないように必死で我慢していたが、とうとう燃え尽きた」と、彼は言う。限界に達したベラは、大学を辞めた。

こうした学生がアメリカの外交を支えているのは公然の秘密だ。政府機関であれ民間であれ外交の仕事に就くには履歴書に「インターン」の一言が必要だと知る学生は、薄給どころか無給でもせっせと働く。

無給で働ける経済的余裕がなければ

「ただ働きのインターンがいなければ政府が機能しないことは、誰でも知っている」とワシントンに拠点を置くシンクタンク、アトランティック・カウンシルのレイチェル・リゾ上級研究員は言う。「この業界の人間が今の仕事に就けたのは、無給でインターンをする経済的余裕があったからだ」

フォーリン・ポリシー誌は政府機関、シンクタンク、非営利団体など外交政策に関わる組織でインターンをしている、あるいは過去にインターンを経験した約30人に話を聞いた(雇用主を批判すれば就職に響くとの不安から、一部の回答者は匿名を条件とした)。

すると回答者の多くが、インターン先で賃金を得ていなかった。インターンシップはフルタイムの就職口を得るために重要だと、大勢が答える一方で、ほぼ全員が待遇を不公平と感じていた。無給のインターンシップに参加する余裕がないことを理由に、公務員や外交関係の進路を諦めた者もいた。

インターンがいなければ、ワシントンはたちまち立ち行かなくなるだろう。議会では受付や電話番をし、法案に関する調査を行う。国務省や国防省では政策文書の作成を手伝い、SNSに投稿する文章を書き、事務をこなす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イスラエル、ガザ停戦協定の履行再開と表明 空爆で1

ビジネス

米韓が通商合意、トランプ氏言明 3500億ドル投資

ワールド

印パ衝突、250%の関税警告で回避=トランプ氏

ビジネス

英住宅ローン承認件数、9月は予想上回る 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中