最新記事

災害

空爆のように街が破壊された... 何が起きたか本当に知らないんですか?【ケンタッキー州竜巻ルポ】

My Devastated Neighborhood

2021年12月20日(月)15時55分
モリー・マッカフリー(米ケンタッキー州在住ライター)
ケンタッキー州メイフィールドの竜巻被害

ケンタッキー州メイフィールドで竜巻に破壊された自宅前にたたずむ男性 CHENEY ORRーREUTERS

<米中西部・南部を襲った史上最大級の竜巻が残した大きすぎる傷痕。だが完全に破壊されたブロックがある一方、たった1キロ半離れているだけで停電すらしていない地域も>

夫と私は最初の警報音でたたき起こされた。2021年12月11日土曜の午前1時、まだ2時間しか寝ていなかった。

まず携帯電話のアラームが鳴って、私たちは目を覚ました。すると外からも警報が聞こえてきた。

まるで闇夜を切り裂く空襲警報。考える暇はない。跳び起きて着替え、避難に備えて靴を履き、コートも着た。慌てはしなかったが、ついに来たかと思った。

私たちがケンタッキー州ボーリンググリーンに引っ越してきたのは2008年。あの頃、竜巻警報が出るのは年に1度か2度で、それも夏の間だけだった。まさか12月に出るなんて。

本当に来るのかと、町の人たちは竜巻が来る前の金曜日から心配していた。

この辺りの家には地下室がない。干上がった地下水脈の洞窟があるから、地面は掘れない。

だから私たちは寝室を出て、窓のない廊下に避難した。でもエアコンがないから暑い。12月の深夜なのに、妙に暑い。

ああ、今度こそ私たちの町がやられるのかしら。そう思った次の瞬間、電気が消えた。天気予報も見られない。孤立、だ。

午前1時20分。雨が激しい。今までに聞いたこともない、ドラムをたたくような雨音。続いて、今度は何かが屋根に当たる音。すごい。

「竜巻ね」

私が言うと、夫は「ただの雹(ひょう)さ」と言った。「竜巻なんかじゃないよ」

私を安心させたかったのだろう。でも、私には信じられなかった。

「これがただの雹?」

私はそう言って彼の目を見た。

貨物列車のような轟音

逃げようとは、思わなかった。怖くて動けず、ただ抱き合っていた。何かが屋根を、路面を、そして立ち木をたたく音。何かが引きちぎられる音。

竜巻の音は向かってくる貨物列車に似ていると聞いていたが、本当だ。音の洪水。あらゆる騒音が押し寄せる。ほかの感覚が全て麻痺してしまうほど圧倒的だ。

と、次の瞬間、音が止まった。不気味な静寂。

「いま何時かな?」と夫に尋ねた。真っ暗で腕時計は見えない。コートから携帯を引っ張り出し、時刻を見たら5分とたっていなかった。

後でいろいろな人と話したが、竜巻が続いた時間については意見が分かれる。私には3分くらいに思えたが、90秒と言う人もいた。

竜巻警報がまだ続いているか、ツイッターで確認したかったが、夫の携帯にも私の携帯にも電波が入らない。

私たちは廊下でさらに30分待ち、数分置きに外をのぞいた。午前2時頃、パトカーの青い光が私たちの家を照らし出した。その後はまた暗闇と不気味な静けさが戻った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

肥満症薬、米患者の63%が1年後も投与継続=薬局請

ビジネス

再送-日本のM&A、上期34兆円で過去最高 トヨタ

ワールド

ブラジル議会、ルラ大統領の金融取引税引き上げを却下

ビジネス

世界のエネルギー部門CO2排出量、4年連続で過去最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中