最新記事

衆院選

総選挙で小さく勝ち大きく負けた野党、狙って得た「成果」は何もなかった

WINNING SMALL, LOSING BIG

2021年11月12日(金)19時02分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

本当の理想シナリオを言えば、と彼は語った。狙いはこの時点で自民党幹事長だった甘利明の神奈川13区だった。そこに野党統一候補の山本が挑戦するという構図をつくり、消費税減税、政治とカネを争点とする象徴的な選挙区とする。狙いは小選挙区の勝利だけでなく、首都圏での比例票掘り起こしだ。メディアの注目を引き付ける選挙区をつくり出し、小選挙区+比例票の上乗せを狙えば、山本だけで数議席を獲得するチャンスが生まれる。

セカンドベストは、比例の議席数が多い近畿ブロックを狙って、大阪で維新の会と対峙しながら票を掘り起こすという選択だ。実際に出馬する可能性を想定し、山本は昨秋の大阪都構想をめぐる住民投票で反対運動に加わっていた。

希代のポピュリストである山本の力を発揮するためには、「立ち向かう強敵」と「確実に得られる議席と与党にダメージを与える議席」の両方が必要になる。そのターゲットをどこに定めるのか。数々の選挙戦を仕切ってきただけあってか、斎藤の視点は意外なほど冷静だった。

「8区は雨降って地固まる効果はあった。共産党も(候補者を)降ろしやすくなったし、候補者の名前が無党派にも浸透した。これで石原は負けるだろう」

211116P44_SRP_03.jpg

石原伸晃の応援演説後、人波にもまれる岸田首相(中央) SOICHIRO KORIYAMA FOR NEWSWEEK JAPAN

立憲幹部への怒りがもたらした結束

まさに山本騒動は小さな追い風を2つ吹かせた。1つは結束であり、もう1つは認知度の向上だ。もともと8区から出馬を表明していた上保匡勇をはじめ共産党関係者も、騒動で注目が集まったことが立候補取り下げの大きな要因だったと証言する。

地元の立憲関係者も「上のほう=党幹部」への怒りが結束を呼び込んだと断言した。騒動はメディアの注目も集め、報道は増えた。無党派層も関心を持ったとみられ、東京8区の投票率は都内トップの61.03%まで伸びた。

ここが肝心なところだが、どれも立憲側が意識的に仕掛けたものではなく、全て偶然にしてそうなってしまったということだ。彼らは幸運だった。

「でも、騒動を大きな視点で見れば、得をしたのは与党だ。野党が選挙区ひとつ調整できないと知らしめてしまったからな」

「結果はもう見えてくるな」とコーヒーを飲み干し、斎藤は予言者然と言い切った。

「政権交代はない。野党は自らチャンスを逃したんだ。スローガンからしてダメだろ。共産党の『政権交代』は二番煎じ。立憲の『変えよう』も既視感がある。太郎は『れいわニューディール』か。選挙ポスターにカタカナはセンスがない。それなら維新の改革を軸にした押し出しのほうがはるかに有権者の心をつかむ。維新は嫌いだが、今回はかなり票を伸ばすよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中