最新記事

BOOKS

日本の覚醒剤の3割は、米軍の横流し?北朝鮮から直行便?──驚きの証言

2021年11月25日(木)12時45分
印南敦史(作家、書評家)


 和久井は大きく一息ついた。そして続けた。
「その火をつけたのは俺だったんだよ」
「えっ、つまり和久井さんが日本にシャブを広めたってことですか?」
 驚く僕に、和久井は衒(てら)いもなくこう言い放つ。
「だからいま、深く反省しているよ。というのも、俺たちはルールを守って覚醒剤を扱ってきた。あのな、覚醒剤は、国家戦略を抜きにしたら誰のためにあるのか。アレは、夢を失った人間の、最後の逃げ道なんだよ。(中略)未来に対する選択肢の少ない人間にとって、一時の夢を見られる道具だったんだ。(中略)
 だから一九六〇年代中頃から一九八〇年代中頃にかけての裏社会のリーダーたちは、それを熟知し、実際に売買をする部下たちに『未来のある人間には絶対に売るな』と釘を刺した。そうした厳しい不文律があった。(12~13ページより)

にもかかわらず、以後のヤクザはそうした倫理を取り払ってしまった。その結果、主婦でも子供でも手に入るような状況になったわけで、つまり、いま麻薬の世界はルール不在。そのため、現在の日本は第三次覚醒剤禍にあると著者は指摘する。

そこで、「なぜなくならないのか」を探るべく、和久井が火をつけた第二次覚醒剤禍の根幹をなす「韓国ルート」、和久井が開拓して"ワタナベゲン"という謎の男が動かした「フィリピンルート」、第三次覚醒剤禍を起こした重要人物などに取材を重ねていく。


「大きな荷物(覚醒剤)はアタッシュケースに入れて絶えずフロントに預けっぱなし。中身については言わないが、フロントマンも薄々感づいているよな。警察のことを察して『ロビーに怪しい連中がいる』なんて情報も筒抜けだった。支配人からマネージャーまでチップで懐柔してね」(57ページより)

これは第二次覚醒剤禍の際、和久井が取引の拠点としていた東京・赤坂見附のホテルニュージャパンについてのエピソードである。つまりは金を積まれたホテルマンたちによって、当時の和久井はガードされていたということだ。今はもうない同ホテルでそんなことが行われていたとは、なかなか衝撃的で、信じがたくもあるような話だ。

7割はヤクザルート、残りの3割はどこから来るのか

他にもさまざまな逸話が明かされていくのだが、見逃すわけにいかないのが、"シナモノ(覚醒剤、大麻、コカインなどの麻薬)"が入ってくるルートについての証言。その7割はヤクザルートだというが、残りの3割がどこから来るかについて、和久井はこう明かしているのである。


「米軍。つまり在日米軍基地からの横流しだ。それも北朝鮮などから組織的にね。
 もちろんそれだけじゃない。在日米軍では、毎月、米兵に本国から仕送りができる。一人当たり一〇キロの積荷が認められている。検査もなく飛行機で直接、基地に運べる。このなかにシャブやコカイン、マリファナを忍ばせ、それをヤクザが買い取っているんだ」(200ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー

ビジネス

焦点:日鉄、巨額投資早期に回収か トランプ米政権の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中