最新記事

日本政治

「妥協の産物」岸田文雄が長期政権を築く可能性

Picking the Safe Option

2021年10月4日(月)17時30分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

一方、外に目を転じれば、隣の大国・中国を震源とする大変動が世界を揺るがしている。日本もこの大きな変化に対応しなければならない。

これまで日本は安全保障上の懸念と経済的な利益を切り離し、中国と「協調的」な関係を維持しようと努めてきた。新疆ウイグル自治区と香港の住民に対する弾圧や台湾に対する高圧的な姿勢を口先では非難しても、具体的な行動に出ることはなかった。

アメリカとの緊密な同盟関係を維持しつつも、新疆綿の輸入禁止など米政府が取った厳しい対中措置には、日本政府は追随しなかった。

中国の権威主義を懸念

自民党内のより現実的な一派は今も対中協調路線を支持している。無理もない。中国は日本企業の最大のお得意様だ(2021年上半期は対中輸出が輸出総額の約22%を占めた)。

それでも総裁選の論戦では、中国の動きに対する警戒の高まりが前面に出た。中国の動きをにらんだ安全保障政策では、日本は安倍政権下で「自由で開かれたインド太平洋」を提唱し、アメリカ、オーストラリア、インドと共に新たな協力の枠組みであるクアッドを発足させた経緯がある。

総裁選に向けた討論会で中国問題を取り上げたのは2人の女性候補の1人、高市早苗前総務相だ。右派の泡沫候補とみられていた高市が中国の神経を逆なでし、日本の財界を震撼させるセンシティブな問題をテーマに論陣を張った。

高市はA級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝を続けており、首相になっても参拝すると明言。さらに、日本が戦前と戦中にアジア諸国に行った行為については過去に政府が出した公式の謝罪に代わる新たな声明を出すべきだとも主張した。

より現実的な提案として、高市は4候補の中でただ1人、対中抑止のために米軍が検討している日本への中距離ミサイルの配備も「積極的にお願いしたい」と述べた。世論調査では中国に好意的な日本人はわずか9%にすぎないから、これはポピュリスト的な政策と言える。高市の影響で、他の3候補も右寄りに傾いた。

岸田はブルームバーグのインタビューで「中国は現在の国際社会で大きな存在となった」と認めつつ、「その権威主義的な姿勢にはさまざまな懸念も感じる」と述べている。

日本の防衛費には、年間GDPの1%以内という非公式だが長年の目安がある。これについて岸田と河野は、1%という数字にこだわらないと述べた。

この姿勢は、NATOがGDP比2%以上の国防費拡充を求めていることや(高市は2%を目指すと語った)、アメリカの3.7%には及ばないが、表向きは自衛のみを目的とし、それでも世界第9位の軍事予算を持つ軍隊として重要な意味がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米化石燃料発電、今後2年に拡大へ データセンター急

ワールド

キューバ外相、中ロと個別に電話会談 トランプ氏圧力

ビジネス

ホンダ株が急落、初の通期赤字転落を嫌気 5月の中長

ビジネス

トランプ政権、カリフォルニア州をガソリン車廃止規制
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 5
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中