最新記事
気候変動

ビル・ゲイツの気候変動「楽観論」に騙されるな...2.9度上昇は許容できない

WHAT GATES GETS WRONG

2025年11月20日(木)19時00分
ピーター・シンガー(プリンストン大学生命倫理学名誉教授)
ゲイツの気候観に「要注意」...無視できない3つのフィードバックリスク REUTERS

ゲイツの気候観に「要注意」...無視できない3つのフィードバックリスク REUTERS

<ビル・ゲイツは「気候変動は文明を終わらせない」と主張し、2.9度の気温上昇をあたかも「許容範囲」であるかのように提示する。しかし、その安心感は危険だ。気温が2度以上上昇すると、温暖化の「自己増強的連鎖反応」が起こるリスクが大幅に高まるが、ゲイツはそこに十分な光を当てていない>


▼目次
特に重要な3つの連鎖

ブラジルのベレンで11月10〜21日まで開催中のCOP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)を前にした10月28日、ビル・ゲイツは自身のサイトに「気候に関する3つの厳しい真実」と題した長文を投稿した。ゲイツが説く第1の真実とは「気候変動は深刻な問題だが、文明の終焉をもたらすことはない」である。

各国が現在取り組んでいる以上の対策を取らなかったとしても、2100年までの気温の上昇は恐らく3度未満に抑えられると、ゲイツはグラフで示している。グラフの数字をより正確に伝えれば、現状のまま進んだ場合、2100年の気温は産業革命以前と比べ2.9度上昇する。

だが本当に気温上昇は2.9度で収まるのだろうか。ゲイツは自身の主張を裏付けるため、今世紀末までに温室効果ガスの排出をゼロにする技術革新に詳しく言及している。しかし彼は決定的に重要なポイントを見落としている。それを検証するために少し視点を戻してみよう。

現在198の国と機関が締約する国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は、1992年にブラジルで開催された「地球サミット」にさかのぼる。当時は研究が進んでおらず、条約では地球温暖化をどの程度許容できるかの上限は定めなかった。

だが18年後の2010年にメキシコで行われたCOP16では、科学的根拠が十分に示され、気温の上昇を産業革命以前と比べ2度以内に抑制することで合意。さらに、海面上昇が低地の島しょ国に脅威となっていることが明らかになり、15年にパリで開催されたCOP21で採択された「パリ協定」では、気温上昇を「2度より十分に下回る水準に抑える(2度目標)」とともに、「1.5度以内に抑える努力を追求する」という踏み込んだ内容が盛り込まれた。

「2度目標」を批判する向きはそろって、2度という気温上昇の上限は高すぎると主張している。

主要国や権威ある専門機関が2度の上限をさらに引き上げても地球への脅威はないと示唆した例はこれまでない。

その理由は、文明が存続できないからではなく、またゲイツが指摘するように気候が安定しているほうが人々の生活は向上しやすいからでもない。

気温が2度以上上昇すると、温暖化がさらに温暖化を招く自己強化的な連鎖(ポジティブフィードバックループ)が起きるリスクが大幅に高まるからだ。たとえゲイツが言及する技術革新によって温室効果ガスの排出がゼロになったとしても、さらに地球温暖化が加速する可能性がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中