ビル・ゲイツの気候変動「楽観論」に騙されるな...2.9度上昇は許容できない
WHAT GATES GETS WRONG
ゲイツの気候観に「要注意」...無視できない3つのフィードバックリスク REUTERS
<ビル・ゲイツは「気候変動は文明を終わらせない」と主張し、2.9度の気温上昇をあたかも「許容範囲」であるかのように提示する。しかし、その安心感は危険だ。気温が2度以上上昇すると、温暖化の「自己増強的連鎖反応」が起こるリスクが大幅に高まるが、ゲイツはそこに十分な光を当てていない>
▼目次
特に重要な3つの連鎖
ブラジルのベレンで11月10〜21日まで開催中のCOP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)を前にした10月28日、ビル・ゲイツは自身のサイトに「気候に関する3つの厳しい真実」と題した長文を投稿した。ゲイツが説く第1の真実とは「気候変動は深刻な問題だが、文明の終焉をもたらすことはない」である。
各国が現在取り組んでいる以上の対策を取らなかったとしても、2100年までの気温の上昇は恐らく3度未満に抑えられると、ゲイツはグラフで示している。グラフの数字をより正確に伝えれば、現状のまま進んだ場合、2100年の気温は産業革命以前と比べ2.9度上昇する。
だが本当に気温上昇は2.9度で収まるのだろうか。ゲイツは自身の主張を裏付けるため、今世紀末までに温室効果ガスの排出をゼロにする技術革新に詳しく言及している。しかし彼は決定的に重要なポイントを見落としている。それを検証するために少し視点を戻してみよう。
現在198の国と機関が締約する国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は、1992年にブラジルで開催された「地球サミット」にさかのぼる。当時は研究が進んでおらず、条約では地球温暖化をどの程度許容できるかの上限は定めなかった。
だが18年後の2010年にメキシコで行われたCOP16では、科学的根拠が十分に示され、気温の上昇を産業革命以前と比べ2度以内に抑制することで合意。さらに、海面上昇が低地の島しょ国に脅威となっていることが明らかになり、15年にパリで開催されたCOP21で採択された「パリ協定」では、気温上昇を「2度より十分に下回る水準に抑える(2度目標)」とともに、「1.5度以内に抑える努力を追求する」という踏み込んだ内容が盛り込まれた。
「2度目標」を批判する向きはそろって、2度という気温上昇の上限は高すぎると主張している。
主要国や権威ある専門機関が2度の上限をさらに引き上げても地球への脅威はないと示唆した例はこれまでない。
その理由は、文明が存続できないからではなく、またゲイツが指摘するように気候が安定しているほうが人々の生活は向上しやすいからでもない。
気温が2度以上上昇すると、温暖化がさらに温暖化を招く自己強化的な連鎖(ポジティブフィードバックループ)が起きるリスクが大幅に高まるからだ。たとえゲイツが言及する技術革新によって温室効果ガスの排出がゼロになったとしても、さらに地球温暖化が加速する可能性がある。





