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悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド

Bashar is Back

2021年10月22日(金)18時19分
トム・オコナー(本誌中東担当)

社会主義とアラブのナショナリズムを融合させたバース党のイデオロギーを掲げる父ハフェズの時代に、西側諸国との関係は悪化した。次男のバシャルは眼科医としてイギリスで研修中だったが、長男の突然の死により、呼び戻されて父の後継者となった。父の死去を受けてバシャルが大統領を継いだのは2000年のこと。当時は、これでシリアも変わるというかすかな期待もあった。

この10年の間に、シリアは西側諸国に対する勝利を全世界に証明した、とシャアバンは言う。

「シリア戦争が証明した最大のメッセージは、この戦争に関する西側のプロパガンダに根拠がなかったことだ。欧米のメディアは、シリアで起きたことを大統領への反乱と内戦と呼んだ。しかし現実を見るがいい。世界の多くの国々がテロを支援し、資金を提供しているこの世界で、国民に支持されない大統領が権力の座にいられるわけがない」

アメリカの関与は限界

こうした見方は一般のシリア人の間にもある。この動乱を個人的に経験してきたシリア人のある観測筋は、本誌にこう語った。シリアではアメリカの敵が力を合わせて勝った。これに味をしめたロシアやイラン、中国のような国々は、他の場所でも同様にしてアメリカの動きを阻止しようとするだろうと。

元駐シリア大使のフォードは、14年に国務省を辞した。シリア戦におけるアメリカ政府の対応に不満があったからだ。彼に言わせると、そもそもアメリカ政府はシリアの紛争で主役を張れるような立場になかった。

「アメリカが信頼を失ったのは間違いない」とフォードは言う。「もともとアメリカはシリアでの出来事の主導権を握れる立場にはなかったし、それだけの資源をつぎ込むこともしなかった」

彼は、アメリカのシリアへの関与の限界を認めている。そもそもシリアは、地理的に見ても(アメリカではなく)イランとロシアの勢力圏にあるからだ。シリアへの関与によって「アメリカは中東における本来の利害関係よりはるかに大きな問題に巻き込まれた。アメリカは、そこではたくさんのプレーヤーの1人にすぎなかった」と彼は言う。「複数のプレーヤーがいる場合、単独のプレーヤーが事態を支配することはできない。イランも、ロシアも、アサド自身も支配できない。トルコもできない。非常に複雑な相互作用が働いている」

複雑な利害関係と影響力が絡み合う異国には手を出さずに距離を置く。時にはそれがアメリカにとって得策なのではないか。フォードは言う。「アメリカ人は戦う相手を慎重に選ぶ必要がある」

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