最新記事

中国

中国系スーパーヒーローが活躍するマーベル新作映画が中国当局の気に障った理由

“Shan-Chi”Fans in China Call Government Decision Not to Release Movie a“Tragedy”

2021年9月9日(木)16時27分
ジョン・フェン
シャン・チー役のシム・リウ

シャン・チーのカンフーアクション炸裂を楽しみにしていた中国のマーベルコミックファンは騒然 ©️Marvel Studios 2021. All Rights Reserved.

<「反中」要素はないはずなのに──巨大市場の興行収入を期待していたマーベルの親会社ディズニーの大誤算>

マーベル・スタジオの新作映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は、北米ではレーバーデーの祝日を含めた9月第1週の週末にオープニング興行収入で歴代トップを記録、快進撃を続けている。

中国系のスーパーヒーロー、シャン・チーの宿命の戦いを描いたこの映画、なぜか中国では検閲当局の許可が一向に下りず、公開の目処が立っていない。スクリーンに炸裂するカンフーアクションを楽しみにしていた中国のマーベルコミック・ファンは、不許可の理由に首を傾げ、不満を募らせている。

主人公のシャン・チーを演じる中国系カナダ人、シム・リウはじめ、この映画ではアジア系の人気俳優が大活躍する。中国と韓国をルーツに持つオークワフィナ、香港映画のスター、トニー・レオン、中国系マレーシア人のミシェル・ヨーと錚々たる顔ぶれだ。さらにシャン・チーの妹役には南京出身の新人メンガー・チャンが大抜擢され、中国語のセリフをしゃべる。

アメリカとカナダでは、この映画はハリウッドへのアジア系の進出を物語る作品としても注目を集めた。2018年公開のマーベル映画『ブラックパンサー』が黒人監督と黒人俳優の活躍に道を開いたように、マーベルは『シャン・チー』でアジア系の才能を迎え入れたと、批評家は論じている。

中国人ヴィランの野望が問題に?

主人公のルーツは中国で、その最強の武器は中国武術という設定なので、中国当局もすんなり公開を認めるはず──中国人ファンの多くはそう考えていた。原作のコミックには問題になりそうな箇所もあるが、映画ではそれらは手直しされているから、なおさらだ。

今のところ中国当局は公開を許可しない理由を明らかにしていない。だが原作のコミックでは主人公の父親の名はフー・マンチューで、どうやらこの人物の造形が当局には気に入らないようだ。フー・マンチューは欧米の支配に怒り、世界征服を目指す犯罪組織の親玉。原作コミックにも元ネタがあり、20世紀前半に小説と映画で人気を博した「怪人フー・マンチュー」シリーズが下敷きになっている。そのステレオタイプ的な中国人像が、政治的な影響に過敏になっている中国当局の不興を買ったらしい。

とはいえ、映画にはフー・マンチューは登場しない。トニー・レオン演じる主人公の父親ウェン・ウーは犯罪組織テン・リングスの親玉だが、複雑な葛藤を抱える人物として描かれている。それでも中国当局にはお気に召さなかったようで、マーベルは巨大市場・中国での収益を失いそうな雲行きだ。ちなみに、これまでに公開されたアベンジャーズ・シリーズはいずれも中国で大ヒットを記録した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テキサス州に世界最大級のAIデータ・エネルギー複

ビジネス

訂正ナイキ、米国向け製品の中国依存低減を計画 関税

ビジネス

都区部コアCPI、6月は+3.1%に鈍化 エネルギ

ビジネス

原油先物は続伸、中東供給リスク低下で週間では大幅下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中