コラム

中国美人女優の脱税摘発、政府の狙いは「一石十鳥」

2018年10月25日(木)17時50分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Killing Many Birds with One Stone (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<国際的な美人女優ファン・ビンビンが消息不明になった事件の真相は、中国政府による巨額脱税の摘発――狙いは「見せしめ」だ>

ずっと消息不明だった中国の美人女優ファン・ビンビン(笵氷氷)は先日、脱税に対する8億8300万元(141億円)の罰金・追徴課税のニュース、そして一通の謝罪文と共に中国メディアに再登場した。

今年5月末、ファン・ビンビンは「陰陽合同(陰陽契約)」したと暴露され、急に表舞台から姿を消した。「陰陽合同」とは、同じ内容の契約について金額の違う2種類の契約書を作ることだ。目的はもちろん脱税。今回、表向きの契約書でファン・ビンビンの出演料は1000万元(1億6000万円)だったが、実際にもらったのは6000万元(9億6000万円)だった。

その上、ファン・ビンビンのマネジャーによる証拠隠滅も発覚。全て明らかな違法行為だが、「規定の日時までに罰金全額を支払えば刑事責任の追及なし」と、官製メディアが公言したことで、中国のネット世論は啞然とした。

02年、大女優である劉暁慶(リウ・シアオチン)は1400万元(2億2400万円)の脱税で有罪判決を受け、1年以上入獄した。どうしてファン・ビンビンの脱税額は2億4800万元(40億円)にも達したのに刑務所に行かなくて済むのか。

「刑法が改正されたからだ」と専門家は説明する。09年の新刑法によって、脱税の初犯の場合、きちんと罰金を払えば実刑を科さないことになった。しかし、これだとお金のない一般人は刑務所に行かなければならないが、有名人や富裕層は罰金で済むことになる。「法律の前では誰でも平等」というスローガンはただのスローガン。現実は地獄の沙汰もカネ次第なのだ。

有名人でも富裕層でも、中国でお金を稼ぎたいなら政府の意思に従わなければならない。今回、ファン・ビンビンへの巨額の罰金処分は、「ニワトリを殺してサルに見せる」ことが一番の目的だ。脱税した芸能人は今年中に自ら税務署へ出頭して不足分を納めよ、それなら罰金と法的責任は一切追及しない、と新華社通信の記事が呼び掛けた。

中国政府にすれば、この刑法によって巨額の税収と罰金で儲ける一方、有名人や富裕層をきちんと管理もできる。トリ1羽を殺せば、「一石二鳥」どころかたくさんのサルがお金を持ってくる、都合のいいやり方だ。

【ポイント】
劉暁慶

55年生まれ。75年映画デビュー。『芙蓉鎮』で金鶏賞最優秀主演女優賞を受賞し、国民的女優に。02年脱税で逮捕

ニワトリを殺してサルに見せる
「殺鶏嚇猴(シャーチーシエホウ)」。中国語のことわざで見せしめの処罰をすること

<本誌2018年10月23日号掲載>

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プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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