最新記事

ワクチン接種

先進国の身勝手な3回目接種はかえって危険な変異株を生み出しかねない

Focus on Vaccine Boosters Over Global Immunization Risks Deadly Variants

2021年8月18日(水)17時09分
ジャック・ダットン
変異株イメージ

世界全体の免疫力を高めなければ、新たな変異株が生まれてくる wildpixel-iStock.

<アメリカと一部富裕国でワクチンの追加接種を行う計画が具体化しているが、専門家とWHOは世界的な集団免疫の獲得をめざすべきと警告している>

バイデン政権は新型コロナウイルスワクチンの3回目の投与を、早ければ9月中旬に開始する準備を進めている。だが有力な免疫学者は、全世界にワクチン接種を普及させることよりも先に、富裕国が自国民の免疫をさらに高める「ブースター」接種を優先するならば、世界はますます致死性の高い変異株出現の危険にさらされることになると警告する。

ロイター通信は8月16日、アメリカ政府が2回目のワクチン接種を開始してから8カ月後にあたる9月中旬から3回目の追加接種を始めることを計画している、と報じた。イスラエル、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスなども、今後数カ月の間にブースター接種を予定している。他の多くの国は、3回目の接種を行うかどうかまだ決めていない。

ブースターの是非に関して、科学者の意見は二分される。多くの科学者は豊かな国がすでにワクチンを2回接種した人々に追加接種を提供する前に、世界全体が集団免疫を獲得することが重要だと考えている。

世界的な集団免疫の獲得にむけての努力を怠れば、これまでのウイルスより危険度の高い新たな変異株が出現しかねないという声もある。

ワクチン供給の不平等

国際ワクチン研究所のジェローム・キム事務局長は本誌の取材に対し、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に対処する上で、世界的なリーダーシップが不足していると警告した。彼はまた、全世界にワクチン接種を普及させることをめざさないと、より感染力や致死性の強い変異株が発生する可能性があると警告した。

「人口のかなりの部分がワクチン接種を完了した集団に対してブースター接種を提供すれば、ワクチンの必要量を押し上げ、もともと十分ではないワクチンがさらに足りなくなって、不平等をさらに悪化させるリスクがある。多くの国で優先的にワクチン接種を受けるべき人々が、まだ1回目の接種も受けていない」

オックスフォード大学の研究者らが運営している世界の変化をデータで読み解くウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によると、世界の人口の76.3%は2度のワクチン接種を完了していない。また、低所得国では少なくとも1回の接種を受けた人は人口のわずか1.3%にすぎない。

先進国でも一部には、ブースター接種が必要な人がいるとキムは言う。免疫が抑制されていて、2度のワクチン接種でも正常な抗体反応が起きなかった人々だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

6月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比3%

ビジネス

7月貿易収支は1175億円の赤字=財務省(ロイター

ワールド

EXCLUSIVE-米政権がTikTokアカウント

ワールド

中国の若年失業率、7月は17.8%に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中