最新記事

ワクチン接種

先進国の身勝手な3回目接種はかえって危険な変異株を生み出しかねない

Focus on Vaccine Boosters Over Global Immunization Risks Deadly Variants

2021年8月18日(水)17時09分
ジャック・ダットン

「そういう人々を無防備なままにしておいてはならないが、たいした人数ではない。高所得国において、ワクチンで正常な免疫を獲得した人々の免疫をさらに高める追加接種を行う前に、予防接種を受けていない世界人口の75%にワクチンを提供しなければならない」と、キムは言う。

「結局のところ、生物学的脅威は存在する。つまり、現在進行中の制御不能な感染爆発が続けば続くほど、より伝染性、致死性、ワクチン耐性の高い変異株が出現する危険が高まるのに、世界の大半は感染抑制の手段をもたない」

「だから、われわれは先が見えない状態だ。WHO(世界保健機関)が承認したワクチンは、現時点で知られた変異株に対してまだ有効だが、現在のような感染爆発は、200億ドル以上かけたワクチン開発の成功を台無しにする変異株を発生させる可能性が高い」と、キムは述べた。

WHOも、自国での追加接種を優先する政府には批判的だ。

8月10日の声明の中で、WHOはブースター接種の必要性はワクチンの世界的な供給状況を事実に即して考慮すべきだと警告した。

「多くの人がまだ1回目の接種を受けていない状況で、自国の人口の大部分にワクチンの追加接種を提供することは、世界的な平等の原則を損なうものである。1回目の接種を早期に普及させることよりも、追加接種を優先することは、パンデミックの世界的な終息の見通しを損ないかねず、全世界の人々の健康、社会的、経済的幸福に深刻な影響を与える可能性がある」と、声明は述べた。

疑問視される必要性

そもそもブースター接種は必要なのか。8月13日付のガーディアン紙に掲載されたコラムで、グローバル・ワクチン・アライアンス(GAVI)のセス・バークレー事務局長と、ワクチン政策に関する政府の諮問委員会で座長を務めるオックスフォード大学のアンドリュー・ポラード教授は、何百万人もの人々がまだ1回目のワクチン接種を待っているときにブースター接種を開始すべきではないと述べ、追加接種の必要性を裏付ける確かな証拠はまだないと指摘した。

「ある富裕国が大規模な追加接種を行えば、追加接種は必要なものだというシグナルが世界中に送られる。そうなれば多くのワクチンが追加接種に使われるようになり、一度もワクチン接種を受ける機会を持てなかったために死ぬ人がさらに増えるだろう」と、2人の科学者は書いた。

米食品医薬品局(FDA)と疾病対策センター(CDC)の当局者は、免疫系の弱い人々のための3回目の接種を承認することと、免疫系が正常な人々に対する追加接種の必要性とは別の問題だとしている。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独製造業PMI、4月改定48.4 22年8月以来の

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで29人負傷、ロシア軍が

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中