最新記事

中国社会

中国政府の学習塾への厳し過ぎる新規制は、逆に親と子供を苦しめるだけ

2021年8月3日(火)18時15分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
北京の学習塾「新東方」

規制強化で教育サービス企業の株価は急落(写真は北京の新東方の教室) TINGSHU WANGーREUTERS

<受験戦争の激化に歯止めをかけ、教育費の負担を減らすことで少子化対策の効果も期待する中国政府だが、逆効果になる可能性が高い>

中国政府は7月24日、学習塾に関して新たに厳しい規制を設けることを表明した。学習塾などを運営する教育サービス企業は非営利団体にする、試験に備えて週末や休み中に学校の教育課程を教えることは禁止、さらに外国の教育課程を教えることや国外の外国人を雇ってリモート教育を行うことも禁止される。

この規制で、中国の1200億ドル規模の教育産業は大打撃を受けている。英語教育サービス最大手の新東方教育科技の株価は、ニューヨーク株式市場で今年2月には19.68ドルを付けていたが、7月29日の終値で2.21ドルにまで急落した。デジタルラーニングによって欧米の教師の授業を比較的安価で提供してきた企業も、絶望的な方向転換を迫られることになる。

今回の規制は、中国政府の巨大IT企業との戦いと同じように見えるかもしれない。しかしこの規制は、学習塾が都市部の上位中流層の両親と子供に悪影響を及ぼしているという、中国社会の考え方も反映している。両親にとっては教育費がかさみ、子供たちにとっては精神的負担になっているというものだ。

中国での教育の機会は、「高考」と呼ばれる、全国統一の大学入試試験に全て懸かっている。親たちは、子供の学力を向上させるために年間数千ドルを学習塾に費やすこともある。

こうした教育費を支出できるのは、比較的裕福な階層だという点は、考慮しておく必要がある。中国の子供の4分の3は、世帯当たりの可処分所得が平均約2635ドルの農村部で育ち、教育の機会は著しく限定されている。

中国の標準的な政府職員もまた上位中流層の出身であり、受験競争が家庭や子供に及ぼす悪影響を経験している。今回の規制が、詰め込み教育を規制する一方で放課後の趣味や文化的興味を奨励しているのは、おそらくそのためだ。

問題は人口減少だけでなく「人口の質」

新規制が両親の教育費の負担を減らし、子供のストレスを緩和させるとしたら、少子化問題の改善につながるのではないかと政府は期待している。政府は今年5月に、1世帯で3人までの子供を認める「三人っ子」政策を打ち出したが、それでも子育てにかかる費用は、少子化の強力な要因となっている。

政府当局が懸念しているのは、人口減少だけでなく、いわゆる「人口の質」だ。農村部の貧しい家庭ではなく、裕福な家庭にもっと子供を持ってほしいと政府は考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内0.5%追加利下げ見込む 幅広い意見相

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、利下げ再開 雇用弱含みで年内の追加緩和示唆

ビジネス

FRB独立性侵害なら「深刻な影響」、独連銀総裁が警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中