最新記事

エコロジー

地球上に残された「最後の秘境」で自然の静寂に耳を澄ます

Save Quiet, Save Everything

2021年7月31日(土)15時37分
キャスリーン・レリハン(トラベルライター)

鳥の声が聞こえるのは、そこが豊かな生息地であることを意味すると、ヘンプトンは言う。「食べ物と水があり、ひなを育てるのに適した季節など、恵まれた条件がそろっているということだ」

そうした場所は鳥だけでなく、人間にとっても価値がある。「騒音公害とある程度無縁な場所は、健全な自然が残っている場所でもある。生態系が保たれ、多様な生物が生息する場所では、植物が大気中の炭素を吸収して人間を含め動物に酸素を供給する」

静寂は人の健康や幸福にも寄与するのか。答えはイエス。これまでの研究で、静かな環境は認知能力と創造性を高め、ストレスレベルを下げ、長生きできる確率を上げることが分かっている。喧騒が増す一方の今の世界では、静寂はたちまち人を幸福にするのだ。

「沈黙が金なら、静寂は金脈だ」とは、ヘンプトン式の格言。騒音まみれの都市を離れ、緑豊かな環境で静寂に耳を澄ませば疲れた心が癒やされる。有害なノイズをデトックスできるエコツーリズムは急成長中だと、彼は解説する。

静けさのおもてなし

静寂という価値ある資源を活用すれば、生態系が脅かされている地域に富がもたらされ、そのカネで野生生物を保護し、自然環境を保全できる。

「地球温暖化や有毒廃棄物や野生生物の生息地の喪失、生物種の絶滅といった問題があるのに、静寂を守ろうなんて本気なのかとよく聞かれる」と、ヘンプトンは打ち明ける。

「もちろん本気だ。静かな環境では私たちはよりよい自分になれるばかりか、より明晰に考え、より知的かつ創造的になれ、互いに助け合う社会意識が芽生える」

言い換えれば「静寂を守れば、全てを守れる」のだ。世界初の「静寂な公園」は、エクアドルの先住民コファンの居住地でもある。今や人口わずか1200人。コファンの人々は自分たちの土地を守るために持続可能な資源である「静寂」を世界中から訪れる旅行者に提供している。

「彼らは違法な金の採掘から自分たちの土地を守る資金を確保するため、エコツーリズムを軌道に乗せようとしている」と、ヘンプトンは説明する。「自分たちの資源を奪おうとする外界の圧力に必死で抵抗して、伝統的な生活様式を守ろうとしているのだ」

コファンが守り続ける静かな森は生き物たちのひそやかな営みに満ちている。ヘンプトンはコファンのガイドと共に、サバロ川の支流沿いに森を探検する少人数のツアーを主催している。

「自然環境を守る唯一の方法は、人々に自然環境に関心を持ってもらい、自然との触れ合いを生活の一部にしてもらうこと」と、彼は言う。「そのための唯一の方法はそこに案内して、その素晴らしさを体験してもらうことだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官

ワールド

米台貿易協議に進展、台湾側がAPECでの当局者会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中