最新記事

製薬

アルツハイマー新薬の、バラ色とは言えない評判とコスト

Alzheimer's Drug Thought to Cost Up to $50K for 1 Year Approved by FDA

2021年6月8日(火)13時48分
レベッカ・クラッパー
試験管(イメージ)

今回の新薬承認で研究開発には弾みがつきそうだ alentynVolkov-iStock

<病気の原因に作用する初めての薬として期待が寄せられているが、今後まだ追加試験が必要だという条件つきの承認に>

米食品医薬品局(FDA)は6月7日、アルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を承認したと発表した。アルツハイマー病の新薬承認は約20年ぶり。FDAは新薬について、アルツハイマー病の進行を遅らせるだけでなく、根本的な原因に作用する初めての薬だとしているが、有識者の間からは、はっきりした治療効果が認められていないと警告する声もあがっている。

新薬は米製薬会社のバイオジェンと日本のエーザイが共同で開発したもので、一つの試験でアルツハイマー病に関連する認知障害の悪化を遅らせる効果が示された。症状を回復させる効果は示されなかった。

今回の承認は、深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という形で行われたものであり、FDAは開発元に対して、追加の臨床試験で薬の有効性を証明するよう要請している。この追加試験の結果、効果が認められない場合には、FDAが承認を取り消す可能性もある(承認取り消しは稀なケースだが)。

アメリカの何百万人もの高齢者やその家族に影響を及ぼす可能性のある今回の新薬承認をめぐっては、医師や専門家、患者と家族、また患者の保護グループなどの間で論争が持ち上がるのは確実とみられる。一部では効果に疑問を呈する声も根強いからだ。それだけに今回の決定は、漸進的な効果しか認められない治療を含む実験的な治療を評価する基準にも、大きな影響を及ぼすことになる。

効果の割に高過ぎる

値段が高いことも問題だ。新薬は4週間に1回の点滴投与で、価格の目安は年間3万ドルから5万ドルとされている。

非営利の医療技術評価機関である米臨床経済評価研究所は、新薬承認に先立って実施した予備分析の中で、「総合的に見て有効性が不十分である」ことを理由に、新薬の価格は年間2500ドルから8300ドルに設定すべきだとの見解を示した。同研究所はまた、追加試験で新薬の有効性が確認されなければ、「どのような価格でも高すぎる」ともつけ加えた。

アメリカで600万人近くが、世界全体ではさらに大勢の人が患っているアルツハイマー病は、脳の記憶や論理的思考、情報伝達や基本的日常業務をつかさどる部分を徐々に攻撃していく病気であり、進行すると最終的には嚥下機能が失われる。認知症の原因として最も一般的で、今後何百万人ものベビーブーマー世代が60代、70代を迎えるなか、患者は増える一方だと予想されている。

今回承認された新薬のアデュカヌマブは、脳内に蓄積して認知機能を低下させると考えられている有害なたんぱく質「アミロイドベータ」を除去するのが狙いだ。これまでにも複数の実験薬がこれを試みてきたが、患者の思考能力や自立機能を改善することはできなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、数日内にドイツを提訴へ ガス代金の賦課金巡

ワールド

日米との関係強化は「主権国家の選択」、フィリピンが

ビジネス

韓国ウォン上昇、当局者が過度な変動けん制

ビジネス

G7声明、日本の主張も踏まえ為替のコミット再確認=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中