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自己責任同意書:五輪選手は手術台への階段を上るのか

2021年5月31日(月)17時26分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

支持率が落ちた政権を維持するためなのか、次期選挙のためなのか、それとも初期の理念を考えるという、人間としての、あるいは為政者としての思考を停止させてしまっているからなのか?

私たち日本国民の命は与党の政権維持や選挙の駒ではないし、世界各国の選手たちもIOCが金儲けをするためのショービジネスの役者でもない。

もしコロナで東京大会を中止したというのなら、それに対する損害賠償は中国に求めればいい。

日本のコロナ対策は確かに失敗しているけれど、そもそもコロナの初期対応を意図的に隠蔽したのは習近平国家主席だ。習近平がWHOのテドロス事務局長と手を組んでパンデミック宣言を遅らせたことは否定しがたい、紛れもない事実である。それがいま全人類の命を奪い苦しませている。

だから日本は何も東京大会をコロナ未収束により中止したからと言って、そのことに対する責めを負う必要は全くない。契約がどうのこととか賠償金がどうのこうのといったことは、平常時の話であって、今は全世界が「コロナの戦時下」にある。

逆に、ここまで追い込まれた全人類への謝罪と補償を中国に求めたいくらいだ。

現にバイデン大統領はコロナウイルスの発生源に対する再調査を求めているし、イギリスのジョンソン首相も賛同の意を表しているではないか。

日本のワクチン接種が遅れていることと、新しい変異種の流行の兆しもあることから、アメリカは日本への渡航を最高危険レベル4と指定して禁止したが、東京大会を中止する条件をアメリカが日本のために整えつつあるという見方も出来なくはない。

IOC最大のスポンサーはアメリカの放送大手・NBCのようで、オリンピックを商業化していったのもアメリカのようだが、人類はそろそろ「平和の祭典」の商業化と政治化に歯止めを掛けるときが来たのではないかと思う。

コロナがそのきっかけとなれば、日本は英断をした国として人類史上に栄誉ある名前を残すことになるだろう。

仮に目の前で起きている津波が、果たしてこれ以上激しくなって人命を呑み込んでいくか、それとも突如引いていくかという分岐点の時に、人々は「突如消えるかもしれない」という「賭け」に命を預けるだろうか。リスクを回避する行動に出るのではないのか。

それができないのは、そこに「商業化」と「政治化」そして「政権維持」という「命の秤にかけてはならないバロメーター」が存在しているからであることに、素直に目を向けたい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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