最新記事

バイデン増税

キャピタルゲイン増税案をめぐるウォール街と米政府の攻防

2021年4月27日(火)18時23分
ジェンキンス沙智(在米ジャーナリスト)

そのうえで、ディーズ委員長はこの条件を満たすのは米納税者のわずか0.3%であり、およそ50万世帯しか増税の対象にならないと説明。これら富裕層は所得に占める賃金の割合が非常に低いだけでなく、様々な戦略を用いて所得を過小報告する傾向もあるため、実質的な税率が中間所得層を下回っているとし、この問題を解消するためにバイデン大統領はキャピタルゲインを賃金と同様の扱いで課税する方針であるとした。

米国の所得格差は大きな社会問題で、コロナ禍で貧富の差はさらに広がっている。FRBのデータによると、所得上位1%の世帯は総資産額が2020年第4四半期時点で90%までの世帯の合計を上回っていた。米国の株式とミューチュアルファンドに絞ると、所得上位1%の保有率が50%を突破しており、このところの株価上昇で富裕層の富はさらに膨らんでいる。

ディーズNEC委員長はキャピタルゲイン増税が「公平であるだけでなく、税制自体の信頼性と公平性を著しく損なう租税回避を減らすことにもなると考えている」と述べ、低水準のキャピタルゲイン税率は投資を促し、経済成長を後押しするとの意見に対しては、この税率と投資水準に有意な相関性が認められたことはないと反論した。

提案より低い税率での着地が見込まれる

むろん、今回の提案は増税対象になるであろう大手機関投資家の激しい反発を招いているが、実際にこれが成立する見込みは低いとの見方が優勢だ。

米下院歳入委員会の元委員長であるケビン・ブレイディ下院議員(共和党、テキサス州)がFOXビジネスとのインタビューで、バイデン氏の提案は「米国経済を罰する」ものであり、下院共和党は「あらゆる手段を尽くして」この成立を阻止すると語ったように、共和党議員から支持が得られるとは考えにくい。

また、たとえ民主党議員の賛成のみで法案を可決できる財政調整措置の手続きを活用したとしても、一部の民主党議員が反対に回る可能性は排除できない。

よって実際の増税率はバイデン大統領の提案より低くなる公算が大きく、ゴールドマン ・サックスをはじめとする市場関係者の多くは、審議の末に現行税率とバイデン氏が望む税率のほぼ中間点である28%に落ち着くと予想している。

ただ、市場全体への影響は軽微になるというのが大方の見方ながら、高バリュエーション銘柄やこのところ急騰しているハイテク株などは売り圧力にさらされる可能性があり、市場の注目度は依然として高い。

バイデン大統領は28日(日本時間29日午前)に連邦議会の上下両院合同会議で初の演説に臨む予定で、これに併せてキャピタルゲイン増税案を含む米国家族計画の詳細を発表する。

sachi_headshot.jpegジェンキンス沙智
フリーランスジャーナリスト兼翻訳家。
テキサス大学オースティン校卒業後にロイター通信に入社し、東京支局で英文記者としてテクノロジー、通信、航空、食品、小売業界などを中心に企業ニュースを担当した。2010年に退職・渡米し、フリーランスに転向。これまでに、WSJ日本版コラム「ジェンキンス沙智の米国ワーキングマザー当世事情」を執筆したほか、週刊エコノミストやロイターなどの媒体に寄稿した。現在は執筆活動に加え、大手金融機関やメディアを顧客に金融・ビジネス・経済分野の翻訳サービスを提供している。JTFほんやく検定1級翻訳士(金融・証券)。米テキサス州オースティン近郊在住、愛知県出身。


ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中