最新記事

女性論

【フェミニズムの入門書8選】これから勉強する方におすすめ本を紹介

2021年4月21日(水)14時24分
リベラルアーツガイド

(7)チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』

book202104211419_07.jpg82年生まれ、キム・ジヨン
created by Rinker

2016年に発売されるやいなや、韓国で130万部を突破し、世界25カ国で翻訳が決定、2020年には映画化も果たした異例のベストセラー小説です。→詳しくはこちら

大まかなあらすじ

・33歳になるキム・ジヨン(韓国における1982年生まれの一番多い名前)は、3年前に「幸せな」結婚をし、去年、女の子を出産したばかり

・それがある日突然異常な症状を見せはじめるようになり、その原因を探るため、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を克明に振り返る

この小説がなぜフェミニズムの入門書となるかといえば、これは現代の「得体のしれない悩み」に他ならないからです。

第二波フェミニズムの記事でも詳しく紹介していますが、「得体のしれない悩み」とは、ベティ・フリーダンによる『女らしさの神話(邦題:新しい女性の創造)』(1963)で取り上げられた、アメリカ郊外に住む高学歴の中産階級主婦たちが抱く絶望のことです。

book202104211419_08.jpg新しい女性の創造
created by Rinker

夫の妻として、子どもの母として、女性役割に押し込まれながら息を殺して「空っぽの巣」で生きている女性たちが、その悩みを自覚することによって第二波フェミニズムが生まれ、世界的なムーブメントにつながりました。

それから半世紀以上経った東アジアで、キム・ジヨンというひとりの主婦の絶望という「得体のしれない悩み」が世界中の共感を集めているという時点で、筆者はフェミニズムを学んできた者として衝撃を受けました。

近代に入って第一波フェミニズムが生まれ、男女平等という当然の理念が制度的にも社会規範としても劇的に浸透したかのように見える今日、女性をめぐる状況は、改善するどころか50年前のアメリカとほぼ変わっていないということになります。

ケア責任、格差、教育、性暴力、差別――女性の前に幾重にも立ちはだかる壁を、いかに克服することができるのか、いまを生きる私たちの手にかかっているということを本書は教えてくれます。

参考

『82年生まれ、キム・ジヨン』のほかにも、フェミニズムの入門書としてぴったりの小説をいくつか紹介します。

・ヴァージニア・ウルフ、杉山洋子訳『オーランドー』

エリザベス一世統治下のイギリスで生まれ、360年を生きた主人公オーランドー。男であったり女であったりしながら恋愛遍歴を重ね、時空と性をかけぬけるファンタジ―伝記小説。映画もおすすめ。

book202104211419_09.jpgオーランドー (ちくま文庫)
created by Rinker

・エレナ・フェッランテ、飯田亮介訳『ナポリの物語Ⅰ〜Ⅳ』

戦後、暴力と貧困に満ちあふれた下町ナポリで生まれ育った二人の少女が奏でる大河小説。女として生きるうえでの裏切りや欺瞞、そして輝きがこれでもかと迫ってきます。夜ふかし必至。

book202104211419_10.jpgリラとわたし (ナポリの物語(1))
created by Rinker

・小林エリカ『トリニティ、トリニティ、トリニティ』

2020年夏にオリンピックが開催される東京を舞台にした近未来長編小説。母、私、娘という3世代の女性を中心に、母性、高齢化社会、核をテーマにスリリングに展開。結末は圧巻です。

book202104211419_11.jpgトリニティ、トリニティ、トリニティ
created by Rinker

・早稲田文学会『早稲田文学増刊 女性号』

川上未映子責任編集。豪華執筆陣82名による俳句、詩、小説、エッセイ、論考、対談までなんと556ページにもなる重量感たっぷりの一冊。女性と文学の現在の一端を垣間見たい方に。

book202104211419_12.jpg早稲田文学増刊 女性号 (単行本)
created by Rinker

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中