アフガンの戦場から米兵が去った後、殺人マシンによる「永続戦争」が残る

No End To Forever Wars

2021年4月20日(火)18時58分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元陸軍情報分析官)

最も重視されているのは、永続戦争の巨大なネットワークとそれをサポートするソフトウエアの運用に必要な専門知識だ。

自律的な偵察と検索能力を増す衛星ナビゲーションがあり、個別武器の誘導が発達した時代において、長距離高精度ターゲティングが目的を果たすために必要なのは、正確な地理座標だ。そしてそのためには、見えないところで働く無数の人員が必要となる。この新しい永続戦争では、実際にアフガニスタンのような危険な場所に赴く少数の兵士やパイロットを支えるために圧倒的多数の人が動員される。1人の兵士の背後に数十万人がいる計算になる。

これが今の戦争の現実だ。これを理解しない人たちは、戦地に駐留する兵士の数ばかりを気にし、政府の発表を信じ、和平へ向けた進展があったとか、米兵が帰還できると思い込み、あるいは戦争が終わると楽観してしまう。

永続戦争のもう1つの特徴は、人の目を欺き、人を安心させるような報告が戦場から発信され得ることだ。なぜなら兵士を戦闘の現場から外した結果として、この戦争マシンの内側にいる人々は実際の戦闘の物理的現実、つまり戦争の音と臭いから遠く離れているからだ。

兵器や物資より情報が支配的であるということは、危険にさらされるアメリカ人の命を最小限に抑えつつ、アメリカの利益を最大化できる。

軍隊には、アメリカ人の死傷者を避け、かつ民間人の犠牲者を最小限に抑えたいという願望がある。まずアメリカ人死傷者を最小限に抑えることは健全な軍事目標であり、政治的にも必要だ。民間人の被害を最小限に抑えることは、人道的かつ戦略的な目的でもある。だがどちらも完全に利他的な目標ではない。

効率的な仕組みは、ミスを最小限に抑えることができる。それ故、ニュースになりにくい。だから議会や国民、メディアの干渉から解放されて、戦争を邪魔されずに継続できるようになる。

アメリカの戦争のやり方は、戦争を可能な限り見えにくくするものになった。それは、テロ対策が特殊な機密性を必要とするだけではなく、秘密裏の活動なら邪魔されずに継続できるからだ。米議会も国民も、特に透明性や監査を求めて騒いではいない。

国家安全保障当局は、国民は知りたくないはずだと仮定している。なぜなら戦争は大部分の国民に関係なく、国民には犠牲を払う用意がないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中